日本発世界標準は難しい?

前回のKanotの投稿「ITスキル標準であるITSSとECDL」を読んで、日本のITスキル標準と欧米のITスキル標準に明確な違いがあることを知った。先日、情報処理技術試験の結果発表があり、資格試験についてIT業界の方と話していたら、面白いことを言っていたので、書いてみる。

Kanotの投稿にコメントしたように、日本発の世界標準になるようなIT資格がないものか?という話をしていたら、日本固有の文化背景が原因で、例えばITILのような世界標準は日本からは波及し難いという話を聞いた。

日本は「暗黙の了解」とか「阿吽の呼吸」とか、所謂“暗黙知”がビジネスのなかでも浸透している。それ故に、日本のビジネスのやり方は、ビシっと文書化されていないケースが多い。どこの組織でも、この状況は同じではないだろうか。そして、明文化されていない部分も、「常識的に判断」したり、「行間を読む」ことをして、みんなが望むことを汲み取る能力が日本人の能力の高さや、仕事のクオリティの高さに繋がっているのではないだろうか。

一方、こういった暗黙知に基づくベストプラクティスを海外でも波及させるということは、「電子レンジに濡れた猫を入れちゃいけないとは説明書に書いてない。書いてない方が悪い。」と主張するような人達に、「常識的に判断」したり、「行間を読む」ことを強要することになる。これは難儀だろう。彼らにとっては、1から10まで手取り足取りビジっと明文化されたドキュメントが必要である。が、日本でのベストプラクティスは、実は明文化されていない、そして、明文化することが困難な暗黙知がベースになっている。

おそらくこのような文化的な背景も、日本のIT資格が教科書的な理論であり、欧米のIT資格が実践的になっている理由の一つなのではないだろうか。教科書的なあるべき姿や理論は示すが、具体的なやり方は自分で考えるべしという日本流資格と、1から10まで手順をしっかり示す欧米流資格とでもいえようか。

ICT4Dとう関連でいくと、「じゃ、途上国の人々にとってはどちらの考え方がなじみ易いか?」ということになる。おそらく欧米流だろう。暗黙知よりも明文化された形式知の方がわかり易いし、実践的な資格の方がアピールしやすいから。(例えば、情報処理技術試験の「ITストラテジスト」という資格をもっている人が何が出来る人なのか?を考えると、イメージし難い・・・)情報処理推進機構などがアジア統一のIT資格試験を確立するための活動をしているが、日本発の資格を世界標準化するのはなかなか難しそうだと感じる。

別の視点では、途上国の人々と一緒になって働き、時間をかけて日本流の暗黙知を伝授することが出来れば、それはそれで、途上国の人々からみても凄いメリットになる。こういう方法を取っていくのか、それとも暗黙知を一字一句明文化する方法をとっていくのか?個人的には、途上国をITビジネスの同等パートナーと考えれば前者の方法でやっていきたいが、単なる外注先としてみるならば、後者の方法をとると思う。いずれにしてもお互いハッピーな関係でビジネスが出来るようにすることが重要だけど、日本企業同士でも認識のズレがおきやすいのがシステム関係の仕事の性。そう考えると、やっぱり欧米流がいいのかもね。皆さんはどっち派?

日本発世界標準は難しい?」への14件のフィードバック

  1. Kanot

    文化的な違いからこうなってるという話ですか。面白いですね。
    確かにそれがお互いの性に合うのかもしれません。
    とはいうものの、超ベンダー依存の実践的な資格を作ることでシェアやファンを獲得して来た(そしてそれで大儲けしてる)MOUSやORACLE MASTERやCCNAなどがあるわけで、そのしたたかさは真似していかなければならないのかもしれません。

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  2. tomonarit 投稿作成者

    ベンダー資格によるシェア獲得。したたかですね。
    数年前にエチオピアでもシスコがCCNA資格取得のためのITスクールを設立したり、トレーニングをE-learningで無償提供したりしていました。途上国、しかもエチオピアというまだまだこれからの国でまで、シェア獲得の種を蒔いているしたたかさ。凄い。

    返信
    1. Ozaki Yuji

      ネットワーク機器やデータベースが公共調達・企業購買で選択されるとき、当該製品の価格・スペック・優秀性・購入可能性だけではなく、当該製品を正しく扱うことのできる技術者・操作者の普遍的な存在がキーになると思います。
      その点、ベンダー認定資格は特定製品の操作技術や知識に対する認定であるため、国や地域によらず、同じ認定資格を持っている技術者に対しては、同じ技術レベルの最低保証が期待できることになっています。また、メジャーな認定資格の名称は、スキルレベルを表現する標準ボキャブラリとして利用できます(人材リクルートの際、いちいち細かい技術的文言を書かなくてもよい)。その認定資格も、「オレオレ」ではなく、胴元となっている組織や企業が、その知名度と技術力を背景として認定することにより、ある程度の信頼性は確保されています(詐称を検知できる仕組みがあります)。
      ※少し前、URL(コメント投稿者の名前にリンクが設定される)に資格試験について考えたことをまとめています。
      華道・茶道の家元制度や、柔道・空手などの段級認定制度とも似ているのかも。

      余談ですが、人事面からみると、欧米では「明文化されている業務内容に対して人を募集する」のに対し、日本では「労働者の職能が業務内容になる」傾向が強いように思います。
      前者はベンダー系認定試験とのマッチングがよく、後者では「人となり、チームワークへの適正、業務態度」が重視されるため、むしろSPI2や玉手箱といった総合試験に走るのかな、と思います。

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  3. よはし

    昔、役所でIT分野の国際協力を担当していた際に、大学のIT教育支援(円借款)とその国の情報処理試験制度の構築、そしてその試験の相互認証をセットで推進する、というようなことに少し関わっていました。確か、当時の経済産業省が推進していたのは、日本のIT資格の標準化ではなくて、各国がそれぞれ作ったIT資格を相互認証(日本のA資格とある国のB資格が同等)してレベル合わせをしよう、という話だったと記憶してます。(今はアジア統一資格の確立を狙っているのかもしれませんが)
    前回の投稿に対する他の方のコメントにもありましたが、私も、日本の情報処理技術者試験は能力認定とか自己啓発の証という意味づけが大きいと考えています。その場合、日本の情報処理試験が狙うべきは、ITベンダー資格試験の位置づけではなくて、(英検に対する)TOEICのような位置づけなのかもしれませんね。

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  4. memura

    はじめまして。
    以前METI関係の団体で情報処理技術者試験の某国可能性調査に参加させて頂いたことがあります。
    既に報告書は一般公開しているので、問題ないと思いますが以下はあくまで私見としてです。

    上記の方のコメントにあるように、ベンダー依存でない中立的な試験という意味で日本の情報処理技術者試験のアジア展開は非常に意義のあるものだと思います。
    一方、同試験は、国家資格であるため、(相互認証できるような体制のない)途上国に展開する場合、国家資格というシステム自体その国に存在していなかったり、METIがJICAさんと違い、試験普及の目的がdigital divideでなく、将来日本の産業支援になる対象国のみをターゲットとしているので、その国の大半が求めているレベル(ITパスポート)と援助側が実施を期待している(FE以上)レベルが異なる、現地実施団体の試験実施継続の体力的問題(継続的な受験者数の確保)など展開する上で様々な問題があることが「日本発の標準化が難しい」という状況を生み出しているように思われました。

    なお、韓国も途上国に自国の試験の展開を既にスタートしており、同試験に合格すれば韓国企業での就職が約束されており、日本の試験よりメリットがあるということで人気があるという話も聞きました。

    返信
  5. Kanot

    途上国が情報処理技術者試験でいうITパスポートレベルを求めるのは、当然ですよね。それが基本的なITリテラシーを証明するいいツールですし、業界問わず通用する。
    一方のFE(基本情報処理技術者)は、SEとしての基礎能力を測るもので、なおかつ合格率も2割を切る試験。memuraさんのおっしゃる通り、日本の産業人材育成にターゲットが近いかもしれませんね。
    そこのギャップが標準化を難しくしてる。なんかとても納得しました。
    韓国はその辺は日本以上に国と産業界が一丸となって海外進出してるので、うまいですよね。

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  6. ピンバック: 追記・コメント「日本発世界標準は難しい?」 « ICT for Development.JP

  7. tomonarit 投稿作成者

    コメントいただいた皆様
    非常に深いコメントばかりで非常に勉強になります。
    妻の出産でバタついていてコメント返信が遅くなってしまいましたが、どうもありがとうございました!
    これからもご意見下さい。よろしくお願いします。

    返信
  8. よはし

    あけましておめでとうございます。
    tomonaritさん、ご出産おめでとうございます。
    私の上記のコメントはあまり詳しく書いておらず、「知見」と言っていただくほどの内容でもないので、差し支えない範囲で多少補足させていただこうと思います。

    私が役所で担当していたのは、IT人材育成の国際協力の包括推進でした。そのメニューの一つとしてIT試験制度にも接点がありました。当時は、IT人材育成の支援を行う場合、(1)IT試験制度の導入、(2)IT教育の場、(3)OJT機会(就労)などをセットを推進する方が効果的ではないか、という議論をしていました。例えば、(1)試験制度導入をやっても、(2)がないと受験者の母集団が形成できないし、(3)がないと需要がないので受験者の動機形成ができない。同様に、(2)IT教育の支援だけを行っても、(1)や(3)がないと持続的な産業発展につながりにくい。となると、(1+2+3)をパッケージ化した包括推進が必要ではないか? そんな考え方から、2003年に内閣官房にタスクフォースが設置されて、IT人材育成関連の包括推進が行われていました(JICAの方にも参加いただいて、一緒に海外ミッションに行ったりしました)。この取り組みについては、関連資料がいくつか公開されています。
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai22/22siryou1.pdf
    http://www.upd.edu.ph/~ittc/ithrd/reference/20100622b_upittc.pdf

    さて、以下は私見です。上記の3つの観点に関しては、(1)IT試験導入や(2)IT教育の支援も現場の苦労は並大抵ではないと思いますが、(3)OJT機会(就労)がODAスキームでは最も難しいだろうと感じています。ここまでくると民間企業の社員教育や投資判断の領域なので、外国政府が相手国に直接関与する手段がほとんどない。やれるとしたら、JBICのツーステップローン(OOF)やJETROのマッチング事業などで現地IT企業を間接的に支援するというのが限界でしょう(韓国がどのようにやっているかは興味があるところです)。こんな経験もあって、日本のIT試験の展開は対象国のITレベルの底上げには貢献するが、IT産業に直結してデファクトを取るのは難しいと思っています。一方で、IT産業で直接的なニーズがあるのはベンダー資格や実務経験。このあたりにジレンマがあるのかもしれませんね。

    とはいうものの、包括支援といっても、調整先が多くて簡単に進むものでもありませんでした。結局のところ、できるところから一つずつ支援していくしかないのかなぁ、というのが私の乏しい経験からの結論です。というわけで、日本のIT試験のアジア展開は是非頑張っていただければと思います。まあ、民間企業もソフト開発現地化で就労機会を増やすなど貢献できることはあるはずなので、私も地味にライフワーク的にIT人材育成やIT産業育成に関わっていければと思っています。

    長文で恐縮です。

    返信
  9. memura

    よはしさん、もしかしたら、以前役所でお仕事ご一緒させていただいているかもしれません。。。
    また、機会があればオフラインで色々お話させてください。
    私もデファクトとるのは困難だと思いました。

    >(3)OJT機会(就労)がODAスキームでは最も難しいだろうと感じています。
    韓国のスキーム詳細は私もわからないのですが、多分日本のようにODAの規制がゆるいのだろうと思います。
    日本の場合、就労でいえば、確かFEを持っていれば就労ビザの手続き簡素化されると聞いたのですが、それ以上の優遇策Oないと思うのですが、あっていますか。

    本試験に限らず、最近の韓国(中国も)途上国IT支援は規模が大きく、インパクトがあるため、現地のカウンターパートもそちらに注目してしまっており、長年日本政府が(JICAさんなど)築き上げてきた支援がかすんでしまっていてもったいないなー、と感じることが多々ありました。

    >一方で、IT産業で直接的なニーズがあるのはベンダー資格や実務経験。
    これも悲しいけど、同感です。

    返信
  10. memura

    何度もすいません。
    先ほどのコメント一部間違えました。
    「多分日本のようにODAの規制がゆるいの」のではなく、
    →多分韓国は日本と比較してODA規制がゆるい

    kanotさん、
    ご指摘の通り、FEは日本での2割切っているのだから当たり前といえば当たり前なのでよね。
    不勉強でECDL未だ内容を分かっていないのですが、こんなのあるんですね。

    返信
  11. Ozaki Yuji

    現実のニーズでいうと、途上国には業務の下流工程がオフショアやアウトソーシングで流れてくることが多いです。とりわけ運用/保守フェーズやテストフェーズでは、対象となるハードウェアやソフトウェアが既に銘柄指定されていることがほとんどです。アウトソースやオフショアを発注する側も、取り扱いできる人材が多そうなハードウェアやソフトウェアをあらかじめ選択していたりします。でないと、特に24/365が要求される(労働集約的な)保守運用がキツくなります。
    となると、当該ハードウェア・ソフトウェアのベンダー名を冠した認定試験や教育課程の価値は自然に上がりますよね。

    先に、シスコがエチオピアで無償教育を行っている話が挙げられていました。シスコは、エチオピアに進出しようとしている企業に対して「エチオピアでも当社製品を扱える人がいますよ」以外に、「エチオピアからも当社製品に精通したエンジニアが(安い人件費でバンバンと)雇えますよ」という営業トークを、欧州内で24/365の保守運用を手がけている会社に仕掛けることもできるでしょう。
    *CiscoはユネスコやJICAとも仲良くやっていますよね。

    なお、FE合格者には「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令の技術の在留資格に係る基準の1号の特例を定める件の一部改正(平成15年5月30日公布、同日施行)」により、日本の在留資格に係る上陸許可基準が緩和されます。これは非常に役立っていると実感しています、というか、これしかないですね。
    FEは、むしろ公的な学校教育課程に切り込んで行くことができれば、という感じです。網羅的で古すぎず、コンピュータ環境への要求が緩く、無償の学習教材(過去問題とその解説)が豊富。これに「学業単位」がくっつけば面白いな、と。

    一方で、企業さんの側でも「習うより慣れろ」「即戦力」というスローガンからそろそろ脱却するべきなのでは、と感じています(個々の企業間での格差が激しいです)。

    返信
    1. memura

      ozakiさん、ご専門的なご意見ありがとうございました。

      ここでおっしゃっているFEの資格保持者の役割とは、ブリッジSE、要求定義書、基本設計書に書いてない要求、機能を自国語で説明でき、さらには日本のシステム開発の流儀がわかり(皆さんおっしゃっている暗黙知)日本語能力のある人材と理解してよろしいでしょうか。

      今、大学にいるのでそう思うのかもしれないのですが、コンピュータサイエンス系の修士だと留学生が非常に多いです。多い研究室だと半分が留学生(中国が大半しかも私費)

      もし、試験のアジア普及の目的がブリッジSEの確保であるのでしたら、海外の学校のカリキュラムに組み込むのと同時に、日本語の能力が高い国内の大学の情報系の留学生にも同じように働きかけるとより効果的なのではと考えてしまいました。

      現地の大学?専門学校のカリキュラムに入れるとは戦略的ですね
      となると、現地の教育省が必ず絡んでくるということですね。商務省、コンピュータ協会教育機関(本音はどこでもしっかりやってくれればそれでいいのかな)多くの関連機関が関わってくると実行部隊は大変そう。^^;

      返信
      1. Ozaki Yuji

        仰る通り、公的教育や学位に絡むと、ステークホルダー間の調整が無茶苦茶に大変です。
        これを強制力を保持しない現場レベルでやるのは不可能なので、実行部隊の手に落ちてくる前に、名刺のメールアドレスの末尾にgo.jpやgovドメインを持った方々の間で片づけてほしいところです(笑)。

        以下、完全に私見となりますが…。

        『要求定義書、基本設計書に書いてない要求、機能を自国語で説明でき、さらには日本のシステム開発の流儀がわかり(皆さんおっしゃっている暗黙知)日本語能力のある人材』は、最終到達目標のひとつですが、日本人でもこれだけこなせる人は少ないですし、ましてや認定試験結果のみで能力を証明することは不可能だと思います。

        FEやJLPTは、その最終目標に至る過程での「実務経験・企業内研修のコストパフォーマンス向上に関連する初期値の指標」でよいと考えています。上で、よはしさんの仰った「TOEIC的な位置づけ」がしっくりとくるような気がします。

        この初期値が低いと、貴重な実務経験や企業内研修を「慢性的な下痢状態」でダダ漏れにしてしまう可能性が高くなります。
        この初期値に限っては、おおむね学習時間に比例して加算的に獲得でき、その量は試験やテストでの測定が何とか可能であると考えています。
        (就業後の企業内研修や実務経験は、乗算的な性質を持つと考えています)

        余談ですが:
        「好きこそものの上手なれ」という言葉があります。コマンドプロンプトに「OK」という文字列が表示されることで「イヤッホォォウ!」になれるための知識って言いますか(笑)。
        「好き」になるために「相手を理解する」方法論や基礎知識って大事なのですが、それを「習うより慣れろ」だけで身につけるには、払う犠牲が大きすぎるように思います。やみくもに努力を重ねた結果が「単なるストーカー」では浮かばれません。
        かといって、マスプロ教育が、個別毎の事例まで完全にカバーすることは無理ですよね。どこかで線引きしないと。

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