ロールモデルの重要性

FOSS4D(Free Open Source Software for Development)について、いくつかの論文を読んでいたら、なるほどと思えるものがあったので紹介したい。

FOSSを開発途上国で利用するというのは、開発コストが安く済む点、途上国ならではのカスタマイズ(現地語インターフェースなど)が出来る点、優れた技術者が書いたソースコードを読み解くことで、途上国技術者のレベルアップにつながる点、著作権違反を防げる点など色々なメリットがある。これまで援助機関もこいうった利点をアピールしてきた。しかしながら、一方で、いくつかの国(ブラジルとか)やプロジェクトを除いて、FOSSの啓蒙活動のわりにはイマイチ利用が促進されていないという見方がある。そんな見方をしているIICDのレポート「Free and Open Source Software for Development」(Victor van Reijswoud and Arjan de Jager)にその理由が説明されていた。

理由としては、以下の3点。

  1. FOSSについての情報がない
  2. FOSSのソフトがない
  3. ロールモデルがない

1.と2.の点は、どちらも途上国におけるインターネット普及率の低さに起因している。
FOSSの情報はネット上に沢山あり、ネットが主な情報源となっている。そして、ネットからソフトをダウンロードして使うケースが多い。しかしながら、ネットへのアクセスが限られている途上国では、そういった情報がないので、学校のITの先生達でも、FOSSの存在をしらなかったりする。自分がいたエチオピアの高校のIT教師達も、Microsoft製品は知ってたけど、Open Officeなどは知らなかった(Linuxは知ってたけど)。ちなみに、Macも知らなかった。同様にソフトがダウンロードできないから使わない。このレポートでは、ソフトをCDやDVDにして配ってFOSSを普及させようとしているEACOSS(East African Center of Open Source Software )という取り組みの事例が紹介されていたが、確かにこういうアナログな取り組みをしないと、普及させるのは困難だろう。

3.の点が個人的には、非常に納得感があった。商用ソフトウェア会社の創立者であるビル・ゲイツ(マイクロソフト)やラリー・エリソン(オラクル)といえば、ITで金持ちになった謂わば“IT長者”だ。結構、こういう人たちを目指して、「一発当ててやろう!」と起業する人たちも多いと思う。しかし、FOSSで金持ちになったモデルというのが商用ソフトに比べると弱い。リーナス・トーバルズとかリチャード・ストールマンとか有名人はいるけれど、金ピカの“IT長者”ってイメージじゃない(おそらくそれなりに金持ちなんだろうけど)。社会貢献よりも富への願望がより強い途上国では、企業家達もビル・ゲイツになりたいと願っても、ストールマンになりたいと思う人は少ないのだろう。これが、FOSSが途上国のITビジネスに絡んでこない理由の一つと考えられる。

このロールモデルの欠如というのが、実は結構大きいと思っている。インドの場合、子供を持つ親達がわが子を“IT長者”にさせようと教育に熱を入れるし、田舎の子供でも将来はITエンジニアになって金持ちの仲間入りしたいといった夢を持つという話を何かの本で読んだ。それはITで金持ちになったインド人モデルが多数実在するから。そして、そういうモデルがあることで、目指す人が増えるから、また成功者が誕生し、さらに目指す若者が増える・・・という好循環があるのだろう。

2月26日(土)に、「情報通信技術と途上国開発@エチオピア」というテーマについて、人前で講演するもらった。そのときに聴講者からの質問で、「エチオピア発でエチオピア人のためのITを利用したビジネスの取り組み事例はあるか?」とい問いがあったけど、自分の知る限りでは、そういった事例は出てこなかった。言い換えると、まだエチオピアではロールモデルがないってことだ。1つ、2つ、ロールモデルになりうる成功例が出てくれば、その国のIT産業そのものが大きく変わって行くのかもしれない。

追伸:
上記のセミナーに来て下さった方々、どうもありがとうございました。人前で偉そうに話が出来る程、経験も知識ないですが、少しでも「なるほど」と思ってもらえたら、嬉しいです。コメント、質問などありましたら、遠慮なくこのブログにコメントよせて下さいね。よろしくお願いします。

ロールモデルの重要性」への6件のフィードバック

  1. takeshi

    「携帯インフラ開発が仕事+途上国開発に関心がある」という関係からICT4Dをキーワードにこのblogに辿り着き、セミナーにも参加させていただきました。

    ビジネス主軸だと現時点では「BOP」というキーワードが出ても実は『BRICsとその次のターゲット』というのが実態で、個人的な志と関わっているビジネスが連動しないというジレンマを抱えている現状です。

    とはいうものの、ICT4Dのツールとして最も強力な携帯電話分野に関わっているのはチャンスですので、なんとか繋げていければなぁ、と考えています。

    今後も貴重な情報源としてblogを拝見させていただきます。機会があればまたセミナー等にも参加したいと思いますので、よろしくお願いいたします。

    返信
    1. tomonarit 投稿作成者

      takeshiさん
      コメントどうもありがとうございます。セミナーにも来て頂き、ありがとうございました。携帯電話インフラ開発とは、エキサイティングな仕事ですね。専門的な知見から、ブログにもコメントなどして頂ければと思います。自分も勉強になるのでありがたいです。
      セミナー、どうだったでしょうか?浅く広く的な話でこの分野をウオッチしている方にはちょっと物足りなかったのでは?とちょっと思っていたのですが。。。
      それでは、今後もよろしくお願いします!

      返信
  2. Ozaki Yuji

    FOSSを使って金持ちになった、と同時に、金持ちになったからFOSSへ貢献、という南アフリカ出身のマーク・シャトルワース(Ubuntuの創始者)みたいな人もいますよね。
    IT系でお金持ちになった人って、エンジェルになったり、ベンチャーキャピタルを作ったりして、自らはあまり目立たず、次世代の成功者を育成する方向に回る人が結構な割合で存在していると思います。

    現実的には、先進国/途上国に関わらず、ハデに「俺ってお金持ちー!」宣言してしまうと、様々なリスクが湧いて出てくるような気がします(笑)。

    別の側面では、ビル・ジョイ(BSD Unixの立役者)や、スティーブ・ウォズニアック(Apple創業者のひとり)、まつもとゆきひろさん(Rubyを作った人)など、技術者はあまりお金に執着しない(できない)イメージなのかも。小飼弾さんにしても、結果的に富裕層になったという感じですし。

    世間(日本国内含む)からは、「プロフェッショナルはお金に対してグズグズ言うな」という態度を要求されているのかもしれませんし、その方が都合がよい人もたくさんいるのでしょう。
    プロ野球の世界で王さんや長嶋さんがトップスターだった頃は年棒の伸びが遅かった事、青色発光ダイオード開発の中村修二さんにまつわるゴタゴタ等を見ていると、そんなことを考えてしまいます。

    返信
    1. tomonarit 投稿作成者

      Ozaki Yujiさん
      なるほど、以外とFOSSで金持ちになった人物は、
      いるでんすね。自分はそこまで知らなかったです。
      改めてちょっとチェックしてみたら、
      サン・マイクロシステムズがMySQLを10億ドルで買収したり、
      Red HatがJBossを4億ドルで買収したりと、FOSSで金持ちになるパターンもありますね。
      http://japan.cnet.com/news/biz/20364986/

      返信
  3. memura

    アフリカは分からないのですが、少なくともアジアのgeekな方の間ではrichard stallmanやっぱり人気なのでは?
    うちの会議に参加したアジア20カ国から参加したオープンソース関係者の間では羨望のまなざしでみられてました笑。
    各国でlinux user group(人数は不明)も存在するようですし(日本でもそうですが)、hacker レベルだとネット上で開発グループに参加するなどだと、国籍を超えて交流されているようで、各国にそれなりにいる。。。と思います。

    また、途上国ではありませんが国によって、OSSが広がりやすい環境とそうでない環境があるのかなというのは感じました。
    例えば、中国ではOSS連盟という団体が存在し、red flagのような国営会社がある比較的政府の支援もあり普及している国もあれば、お隣韓国は、desktopのみならずサーバの国内需要もほとんどがpropriety(9割ぐらい)という国もあり、haansoftの技術者は韓国は自分が活躍する場がないと言っていました。

    また、ラオスやカンボジアなど「自分の国でのんびり暮らす方がいい」、とかつて米国での技術者の職を捨て、自国に帰り、自国の技術者の間やICT途上国支援関係者の超狭い世界のみで有名人などいますのでこういう人が、facebookみたいに利益を求めるのではなく、単に技術が好きで、サービスなりを開発し、お金持ちになるという可能性はあるんじゃないかと思っています。

    返信
    1. tomonarit 投稿作成者

      memuraさん
      アジアだとFOSSの利用度や知名度が結構高いんですね。地域や国によって、状況がかなり違うということなんですね。
      先進国で経験を積んだ技術者が自国で成功するモデルから、そういった成功者が自国の若者に自国で活躍できる環境を作ることが出来たらより理想的と思います。
      「外国に行く=金持ちへの近道」という考えが途上国では浸透していますが、出来れば自分の国にいつつも、金持ちになれる可能性を高められたらもっと良いのにと感じます。
      コメントにあるように、ネット上で国籍を超えて交流・仕事が出来るのがIT分野の利点なので、自国にいつつ世界的に有名になるみたいな可能性に期待したいです。

      返信

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