オンライン・アウトソーシングの現状と課題とは?

7、8年前、マンチェスター大学のICT4D修士コースに留学中の話。修学旅行的な感じでインドに行った際、ホテルにシングルの部屋が足らず、クラスメイトのネパール人と相部屋になった。自分が数時間外出して部屋に戻ると、彼が自分のノートPCを使っている。

「あ、勝手に使ってゴメン!簡単なプログラミングの仕事を請け負ってたんだけど、俺のPCはなんか調子が悪くて。締め切り間近だったんで、申し訳ないが勝手にお前のPCを拝借させてもらったよ〜」

とのこと。そのときは「へー、こいつインドに来てまで仕事してんだなぁ。でも、勝手に人のPC使うなよ・・・(エロ動画とか見たんじゃないか?)。」と思いました。今思うと彼は2007年頃からオンライン・アウトソーシングで収入を得ていたんだと思います。

さて、昔話はさておき、世銀でICT&EducationコンサルタントをしているSaori ImaizumiさんがWDR2016 “Digital Dividends”の内容にも絡んだとても示唆に富んだ興味深いブログを書いていたので紹介します。「How is online outsourcing changing employment opportunities?」というタイトルで内容は、オンライン・アウトソーシングの現状と課題についてのもの。詳しくは直接読んでもらいたいので、以下、自分がなるほどと思った点のみの紹介です。

オンライン・アウトソーシングの現状は?

2009年には年間$700millionの市場規模しかなかったのが、今や約$1billion規模に成長している。いわゆるジョブ・マッチングをするためのプラットフォーム数は2013年の時点で少なくとも145のサイトがあり、今も増加中。有名どころは、Freelancer (登録者数約17millon)やUpwork(登録者数約9.7millon)。

主要な面子はどんな国?

2014年のある調査によると、Upworkに吸収されたoDeskというプラットフォームでの仕事を発注する側の主要な国Top5は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イスラエルであり、一方、仕事を受注する側の登録ユーザ数Top5は、アメリカ、フィリピン、ロシア、バングラデシュ、イギリス。バングラデシュが入っているところに思わず目が行く。

儲かってるの?

oDeskの賃金

Source: Agrawal, Ajay, John Horton, Nico Lacetera, Elizabeth Lyons. 2013. “Digitization and the Contract Labor Market: A Research Agenda.” NBER Working Paper No. 19525. Cambridge, MA.

発注する側は安く仕事を請け負ってくれる人を探せるのがメリットであり、且つ、この手の仕事はIT単純労働が多いと思うと、受注してどんくらい儲かっているのかが気になりますが、このブログでは上記のデータを紹介しています。oDeskの賃金と各国の最低賃金の比較の表。これら2つの賃金が全く同じなら斜めの直線上に各国の点がプロットされるわけですが、見てみるとバングラ、ベトナム、インド、ケニアなどの途上国は、特に斜めの直線からかなり上に位置しています。つまりoDeskからの仕事は途上国の人ほど自国の賃金との比較で何倍もの賃金を貰えるということ(例えば、バングラの人は自国の最低賃金(約$0.10)の40倍の約$4.00の賃金を貰える)。

オンライン・アウトソーシングは途上国への裨益を拡大していく?

自宅で出来るという点で女性にもやりやすいオンライン・アウトソーシングは、途上国の人々に雇用の機会を与え、途上国の人々へ裨益していくと期待したいけれども、それには以下の課題が…

  1. そもそも安定したインターネット環境や個人のスキルが高くないと仕事が受注出来ない(結局、インフラや教育レベルなどのアナログ・コンポーネントが重要という前回前々回のトピックと同様)
  2. オンラインで発注出来る仕事は限定的
  3. やはり発注者は自国のエンジニアに発注しがち
  4. 言語の壁
  5. スムーズに支払いを受け取れる送金システムが途上国に整っていない

どれも全てそのとおりという指摘。単純にオンライン・アウトソーシングの発展が途上国にもどんどん裨益して行くとは言えなさそうです。

以上が「How is online outsourcing changing employment opportunities?」の内容紹介でした。

これまでこのブログでも何回かオンライン・アウトソーシング(の形態の一つとしてより途上国を対象にしているインパクト・ソーシングとかソーシャル・アウトソーシング)について取り上げて来ましたが、やっぱり課題としてあるのは、受注するエンジニアがIT単純作業レベルからどうレベルアップして行くのか?という点。レベルアップしないと結局価格でより低賃金の途上国のエンジニアに仕事が流れて行く「Race to the bottom」に陥ってしまう。そうならないためにはやはりレベルアップするための施策が必要と改めて感じます。例えば、以前の投稿で書いたような、個人としてではなく、組織としてのアウトソーシング受注を狙って、組織として受注した仕事を国内で細分化してアウトソーシングする(自国内でその組織から個人へのアウトソーシングをする)ようなこと。バングラとかまだ低賃金で仕事が取れるメリットを活かせるうちに、そういうことを戦略的にやっていかないと、そのうち国の発展とともに賃金も上がり「Race to the bottom」に負けてしまうのではないか?と感じます。

オンライン・アウトソーシングの現状と課題とは?」への7件のフィードバック

  1. Kanot

    面白そうな記事ですね。あとでじっくり読んでみます。ところで、登録数5位にバングラがいて驚き!と書いていただいたので、私がバングラ時代にフリーランスを取り上げたブログ記事のリンクを貼っておきます。
    フリーランスという形の仕事
    https://ict4djapan.wordpress.com/2012/12/16/フリーランスという仕事の形/

    バングラでフリーランスで食べてけるのは一部の高スキル人材ではあるものの、他の国民と比べて非常に高い給与(世界基準)をもらっているのは事実で、日本でイメージするノマドorひきこもりエンジニアというよりは、おしゃれな勝ち組エンジニアという風に取り上げられていた記憶があります。

    返信
    1. tomonarit 投稿作成者

      そうそう、そうでしたね!思い出しました。元ネタのブログも是非読んでみて下さいね。面白いですよ。

      返信
  2. Ozaki Yuji

    喰っていけるフリーランサーは、激しく技術が高いか、ものすごい人脈がある、ってトコは日本国内も同じなのでしょうね。

    元ブログの記事では、「5. スムーズに(個人が)支払いを受け取れる送金システムが途上国に整っていない」をきちんと取り上げてくれているのがありがたいです。

    国策で海外就労者を送り出している国では、海外就労者本人や家族向けに銀行口座開設や送金手数料の優遇措置があったりする(お金の流れをつかみたい当局の思惑とも一致する)ので、銀行口座やクレジットカード・デビットカードの恩恵を受けている人も増えてくるんだろうな、と。そういう国って、個人宛の送金インフラも結構普及してますしね。
    マネーロンダリングに関する規制に引っかからなければ、送受金は割とスムーズかと。

    バングラデシュでは銀行が激しい預金者口座獲得競争をしてるのかなぁ?

    返信
    1. tomonarit 投稿作成者

      「国策で海外就労者を送り出している国では、海外就労者本人や家族向けに銀行口座開設や送金手数料の優遇措置があったりする(お金の流れをつかみたい当局の思惑とも一致する)」ってのは、非常になるほど合点が行きますね。
      やはり国策として取り組んでいる国とそうでない国との間には大きな差が出て来るんですね。これも「アナログ」コンポーネントの重要性を示す一例ですね。

      返信
  3. yu5884

    自分に近いトピックだったので、コメントします。
    race to the bottomからの脱却案として組織として受注するというのは同意で、まさに僕が今やろうとしていることです。組織として、複雑な仕事をbreak downする技術が高ければ高いほど価値があるので、当たり前な話なんですが、自動化できるところ、できないところ、誰でもできるけど人力でやらなければいけないところと、タスク分解する力を組織としていかに持っているか、ということが大事かと。既に砕けたものを受注してしまうと安かろう悪かろうの薄利多売でrace to the bottomです、というのが過去の実体験としてあります。

    返信
    1. tomonarit 投稿作成者

      コメントありがとうございます。レベルアップしていくために必要な「タスク分解する力」というのはどうやって身に付けて行くのか?というのが途上国ではハードルが高そうですね。単純により上級のエンジニアとチームで一緒に仕事をしたりしつつ身に付けて行くものなのかと想像すると、ある一定レベルのスキルがあれば、例えばFOSSのプロジェクトにボランティアで参加するとか、なんらかの方法はありそうな気がしますが、一方、その「ある一定レベル」までどうスキルを高めて行くかが課題か・・・。うーむ。

      返信
      1. Ozaki Yuji

        yu5884さんの『複雑な仕事をbreak downする技術』って、それですよね。

        問題や課題に対峙し、分析して要件(問題)を見つけ出し、それを基礎知識(抽象的概念)を参照しつつ論理的に詳細化し、実行可能性を考慮してステップごとの具体的なオペレーションを導き出す技術、と言いかえられるかも(昔の報告書バラ書きからの引用)。
        そこで使われるクリティカルパスだとか、責任分界点だとか検収だとか、ほとんどFE(基本情報技術者)、下手すればITパスポートのシラバスにも含まれてたりするんだよな…。

        日本でも、非技術者的視点からは、「ITスキル」と呼ばれるものは「ある種のコンピュータの前に座って」「〜の時は〜すればよい」という特定環境に依存したルールや手順をどれだけ覚えているかで判断されがちです(情報教育と呼ばれるものが、Office ソフトウエアのオペレーション教育になっているところとか)。こういう教育のみを受けた人には、どんなに上流工程の実務経験を積んだとて「複雑な仕事をbreak down」はぜーったいにできまへん。

        途上国における「IT系の人材受給に関する質的ギャップの生じる原因」のひとつとして「基礎的・体系的IT教育の欠如」が挙げられますが、基礎的・体型的知識の欠落した状態では、砕く力も道具もないので、「既に砕けたもの」を「早く・安く」で請ける以外ないんですよね。

        これ、オフショアやアウトソースをする際には必ず行き着くネタなんですけど、といいつつ、純粋なプロセスなので、ここに時間やコストをかけようとする人は少ないらしく、(日本国内では)偽装請負の原因の一つにもなっていると思ったりします。

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