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ルワンダってどんなとこ?(各種指標とICT編)

アフリカ東部にある小国ルワンダ、皆さんご存知でしょうか?

おそらくこのブログをご覧になっている皆さんであれば、ルワンダと聞くと「聞いたことない」、「えっ、あの虐殺の?」に加えて「なんかICTで頑張ってる国だよね」というイメージを持ってる方もいるのではないでしょうか。

そうなんです。ルワンダは国を挙げてICT立国を目指す人口1,100万人の小国です。先日も日経ビジネス「鮫島弘子のアフリカビジネス入門2017 第3章 ルワンダICT編」として取り上げられました。当ブログでもTomonaritが取り上げてます。「ルワンダICT、神戸情報大学院大学、などなど(2017/1/19)」、「世界初!ドローンでのデリバリーサービスはルワンダで(2016/10/19)

そのルワンダに、2017年5月〜7月まで、研究兼インターンで首都キガリに滞在することになりました。インターン先はRwanda ICT Chamber(ルワンダIT商工会議所)で、ICT産業やイノベーションなど起業家支援などの業務を行うことになります(写真はここのHPから引用しています)。もしこの期間にルワンダにいらっしゃる方いましたら、ぜひご連絡ください。ご飯でも食べましょう。

さて、それに向けて、まずはルワンダの経済マクロ指標やICT関連政策などの客観的指標について少々調べてみたのでまとめてみました。(子供とか赤い大地の写真や生活情報を期待した方、ごめんなさい。出てきません。そして、ちなみに私はまだルワンダには行ったことがないため、現時点の解釈には予想が多いに入っていることはご了承ください。)

まずはICT立国を目指す農業国であるルワンダの現状の立ち位置として、GNI(国民総所得)と人間開発指数を調べてみました。

一人当たり国民総所得(世界銀行) 196位/214カ国 (下位10%)
人間開発指数 総合部門 (UNDP)        159位/188カ国 (下位15%)
人間開発指数 教育部門 (UNDP)        159位/188カ国 (下位15%)

一人当たり国民総所得に比べたら人間開発指数の方が少々上なので、所得と比べると教育などが少々進んでいるという印象でしょうか。ただ、いずれにせよ下位15%に入っているので、課題は多いのだと思います。

では、ルワンダの目指すICT立国に関する部分はどうでしょうか。

ICT Readiness (ITU)        150位/175カ国(下位15%)

この指標はICTインフラ、利活用、スキルから算出されていますが、こちらも人間開発指数と同じく下位15%であり、数字からみる限りでは、他国に抜きん出た状況にはないってません。

一方、ビジネスという観点では、異なる数字が見つかりました。

ビジネスしやすさランキング (世界銀行)     56位/190カ国

この指標ではなんと一気に100人抜きでアフリカ第2位です。アフリカ1位はセーシェルという島国なので、アフリカ大陸内では第一位ということになります。これはICT立国を目指す中では大きな成果ですね。

また、ルワンダは汚職対策が進んでいるというコメントをいただいたので、Transparency InternationalのTransparency Perception Index(腐敗認識指数)も見てみましょう。

腐敗認識指数 (Transparency International)     50位/176カ国

非常に高いです。アフリカ大陸ではボツワナに次いで2位です。ダイヤモンドが豊富なボツワナの次に資源の少ないルワンダが来ています。周辺の国々は軒並み140位以下ですので、突出してる高さだと思います。

と、ざっと各種指標を眺めてみましたが、これらの指標から現状のルワンダについて勝手に仮説を立てるとすると、以下のような感じでしょうか。

ルワンダは国家としてICTを活用した農業から知識社会への移行を主導している。特に投資環境整備と汚職対策については共にアフリカトップクラスで、スタートアップ企業の開始や外国から投資しやすい環境、そして透明な政府運営がなされている。一方、それに伴ったICT関連の整備状況は、国主導の光ファイバーケーブルなどは進んでいるものの、利活用やスキルといった国全体での活用では未だ他国に抜きん出た状況にはなっていない。教育などの人間開発に関しても、未だ下位15%にランキングされるなど、国家主導のICT立国と実際の人材育成やICT活用の観点では依然大きなギャップがある。

この仮説は所詮数値からの想像(妄想?)でしかないので、どの程度正しいかは現地で自分で見て・感じて・考えてみたいと思います。

次回はルワンダやアフリカが独自に策定しているICT政策について調べてみます。

(追記)
ルワンダでは汚職対策が進んでいるというコメントをいただいたので、汚職に関する指数も追加してみました。

子供のプログラミング教育について

最近プログラミング教育の話題が多いように思うが、いま大学生と小学生に同時にプログラミングを教えてて、個人的に思うところを書いてみる。

まず、プログラミングができるとなにが嬉しいかと言う点については、個人的には、論理的な考え方、この一点に尽きると思う。基本的な考え方は、どのプログラミング言語でもそんな変わらないので、一度感覚的に理解できるようになると、新しいプログラミング言語でもスッと理解できるし、論理的な思考力も高まると思う。

で、「あんたの言う論理的思考って何?」という点について、いま私が大学生と小学生の両方に同時にプログラミングをら教えてて感じるのは、「最近の子供向けプログラミングツールは論理的思考を育てるのに超わかりやすい!」ということである。

プログラミングで大事な論理的思考について、繰り返し処理と条件分岐の例をあえて大学生向けと小学生向けに分けて書いてみるので、ぜひ比べて見て欲しい。

1.大学生向け(ざざっと読み流してもらえれば大丈夫です)

さて、1から5までを繰り返し処理を使って出力し、最後にendと出力するロジックを考えてみよう。出力画面としてはこの様なイメージになる。

1
2
3
4
5
end

この例では繰り返し処理を5回して変数xに代入し、毎回一ずつ加算し出力する。そして変数x+1が5という条件が満たされたらendと出力する。

コード(以下の例はPython)で言うと以下のようになる。

for x in range(5):
       print x+1
       if x + 1==5:
              print “end”

 

さて、感想はどうだろうか?うーん、、私も自分で書いていて、なかなか未経験者はピンとこないだろうな、と思う。

これが子供向けだとこういうことができる。

 

2.小学生向け(Scratchというツールを使っています)

1から5まで順番に画面に表示して、最後にendと表示されるにはどうしたらよい?

こんなイメージだよ。(以下のURLをクリック)

//scratch.mit.edu/projects/embed/123192098/?autostart=false

この裏で動いてるコードはこんな風になってるんだ。countという箱の値を増やしながら5回クルクル繰り返して、countが5になったら最後にendと出してるのがわかるよね。

screen-shot-2017-02-25-at-10-37-32-am

このコードがイメージできたら、もう一回さっきのプログラムを動かしてみよう。修正もScratchからドラッグ&ドロップで簡単にできるから色々試してみよう。

 

さて、どうだろう?こちらだとプログラミング未経験者でも繰り返し処理と条件分岐が、感覚的にイメージできたのではないだろうか?

この感覚さえ理解できれば、例えば4回敵に当たったら死ぬというゲームの仕組みが、「繰り返し処理で敵に当たったらライフを1づつ減らして、条件分岐で0になったらGame overと表示するのか。」とイメージできるようになる。この感覚はどのプログラミング言語にも応用が利くし、論理的思考が育つので、子供にとっても役に立つんじゃないかと思う。

なので、私個人的には、講師がプログラミングの楽しさや利点を理解してるのが前提で、プログラミング教育は良いんじゃないかと思う。

 

マーク・ザッカーバーグの目指す世界 〜インターネットは人権の一つか?〜

インターネットへのアクセスは、もはや基本的人権の一つなのだろうか?

FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグの「Building Global Community(世界コミュニティの構築)(2017/2/16)」を読んだ。概要は後ほど紹介するが、もはや彼の視点はFacebookを越えた世界の通信へと広がっていて、起業家を越えて思想家に近づいている気がする。彼が以前発表した論文「Is Connectivity A Human Right?(コネクティビティは人権の一つか?)」と合わせて彼の目指す世界を考えてみたい。

以前の投稿「途上国開発におけるGoogle,Facebookの存在感」でも取り上げた通り、彼はFacebookとは別にinternet.orgという組織を立ち上げており、「世界中の人にインターネットを」といったスローガンで活動をしている。この活動(インターネットユーザの増加)は長期的にはFacebookの利益にもなりうるので、完全な社会貢献事業とは言えないのでは?とその投稿で指摘はしたものの、彼の目標は高く、何よりそれを実行できる力(お金・サービス)がある。

インターネットは友達や家族、コミュニティを繋げるだけではなく、グローバル知識社会への基礎となるものであり、全ての人にアクセスする権利がある。[1]

全ての人にインターネットに接続する機会を提供することは、知識社会に参加する基礎となる。それは我々がすべきことというだけでなく、根本的なこととして必要なステップである。[1]

この発言から感じることは、彼はインターネットへの接続はいまや、電気・水道などと同じレベルで世界中の人がアクセスできるべきもので、それによってこのグローバル社会への参加が可能になると考えている。そして彼はFacebookを、そのグローバル知識社会にアクセスする最初のステップとして使ってもらいたいということも述べている[1]。

今回のザッカーバーグ氏の投稿では、繁栄と自由、平和促進、そして貧困削減のためにコミュニティがどうあるべきかと論じている。そしてそのためのFacebookの役割として、以下のように述べている。

Facebookができる最も重要なことは、全ての人々がグローバル・コミュニティを構築できるようにする社会基盤を作ることである。[2]

さらに具体的には、以下のようなコミュニティの構築しうる社会インフラとなることを目指しているとのこと。

  • 世界中で弱まりつつある伝統的な組織を強化できるSupportive communitiesを構築するのをどのように支援しうるか。
  • 世界の人が接しうる危害を防ぎや危機で助け合えるSafe communitiesを構築するのをどのように支援しうるか。
  • 人々が新しいアイディアや共通認識を共有できるInformed communityを構築するのをどのように支援しうるか。
  • 世界中で投票率が5割に満たない現状を踏まえ、世界のCivically-engaged communityを構築するのをどのように支援しうるか。
  • ローカル・グローバル、文化、国・地域を問わず人間性や大衆の意見を反映するInclusive communityを構築するのをどのように支援しうるか。[2]

私個人的な見解としても、インターネットへのアクセスは、このグローバル化された社会で競争力を発揮して行く為に、水や水道と同じく必要不可欠なものになりつつあると思う。特に、これまでチャンスがなかった人にチャンスを与えうるという可能性は、非常に大きいものがあると思う。私自身も、インターネットやPCに大学時代にハマった経験が、今のキャリアに大きく影響している。情報にアクセスさえできれば、私のように勝手にハマって勝手に学んで行ける可能性があるわけで、インパクトは大きいと感じる。

その一方で、大半の情報は英語で書かれており、このインターネット社会が進めば進むほどアメリカ・ヨーロッパなど英語に近い言語の人たちの優位性が高まってしまうような気もしないでもない。この辺りは翻訳技術などが解決してくれるのだろうか。

いずれにせよ、マーク・ザッカーバーグやビル・ゲイツなどはもはやその辺の援助機関よりも資金力・影響力を持っているため、今後もウォッチしていこうと思う。

最後に、マーク・ザッカーバーグの投稿で、ビル・ゲイツの言葉を「好きな言葉」として紹介していたので、それを引用して締めたいと思う。

我々はいつも、2年間でできることを過大評価している。しかし、10年間でできうることを過小評価している。 – Bill Gates –

[1] Zuckerberg, Mark. (2013). Is Internet connectivity a human right?. Internet.org.
(写真もこのサイトより引用)
[2]Zuckerberg, Mark. (2017). Building global community. Facebook.com.

遊びでスマホを使うことの開発効果って??

みなさんデジタルデバイス(スマホ・タブレット等)は普段使ってますか?ほとんどの方は使ってますよね?

では、そのデバイスを勉強など自己研鑽や生活の質改善のために使ってますか?多分大半の方は何かしらそういった目的でも使ってます・・・・・よね?

では、その自己研鑽等に使ってる時間って使用時間のうち何パーセント程度でしょうか?

この回答はおそらくみなさんせいぜい10-20%程度、どんなに高くても50%程度ではないでしょうか?つまり、何が言いたいかというと、デジタルデバイスに費やしている時間のうち、半分以上は遊びなどの目的(ネットサーフィン、SNS情報発信、メッセージ、Youtubeなど)で使われているということです。

では、世の中の「携帯電話が途上国開発に貢献!」の類で取り上げられるテーマというのは何でしょうか?保健情報提供、送金サービス、学習アプリ、、、、等々。いずれも遊び目的以外のものについてです。

もちろんこういったテーマの効果を測ったりすることが大事ではあるのですが、50%を越える時間を費やしている「遊び目的」のデジタルデバイス使用が人間形成や開発に与える影響、ってこれまであまり考えられてきていないのでは??

こういった問題提起をした論文があります。オランダErasmus大学のArora氏とMicrosoft Research IndiaのRangaswamy氏の2013年の論文「Digital leisure for development: reframing new media practice in the global South」です。

内容はまさに上記の問題を指摘していて、デジタルデバイスが開発に与える影響って、真面目な使い方(教育・保健)などより遊び目的の使い方(Facebook, Youtube等)の方が圧倒的に費やす時間が多いため、実はこちらの方が大きいのではないか。なのに、その遊び目的の使い方は研究対象などにこれまでされてこなかった。もっと研究すべきだ。といった内容です。

個人的に「うーむ、確かに・・・」と考えさせられました。確かにこれまで見過ごされてきた視点ではという指摘はその通りと思います。デジタルデバイスの開発への影響という点では、特定アプリ・特定サービスの効果だけではなく、もっと広い視点を持たねば、と反省させられた論文でしたので、紹介させていただきました。

ICTD2017はパキスタンにて開催

ICTと経済開発に関する国際学会であるICTD 2017が2017/11/16-19でパキスタンのラホールで開催されます。この分野の国際学会では最も有名なものです。

ICTD2017
http://ictd2017.itu.edu.pk/

まだHPには出ていないようですが、フルペーパーの締め切りは2017/5/8とのことです。

絶対に論文出すぞ!

 

ICT4D研究がアジアからアフリカにシフトしつつある??

たまには自分の研究について書いてみたいと思います。国際学会ICTD2016でポスター発表した内容で、JICAのYoutubeサイト「ICT and Development」でも取り上げていただきました。

以下は論文の概要です(動画内容とほぼ同一です)。

世界銀行のWorld Development Reportやアフリカ開発会議(TICAD)でのICT立国ルワンダの存在感など、ICTの役割が認められてきた昨今ですが、ICTと開発(ICT4D)の研究フィールドはどのようなトレンドを描いているのでしょうか?特定の地域や国に寄っているのか、それとも満遍なく広がっているのか?そして地域や国のトレンドに変化はあるのでしょうか?

こういった興味から、過去10年間のICT4D関連の論文525本を地域・国でタグ付けし、傾向に変化があるのかを調べてみました。なお、ここでいう地域・国は執筆者についてではなく、研究対象となった地域・国のことを指しています。

  1. 国別トレンド
    以下のグラフは国別の論文割合で、上位6カ国をプロットしたものです。

    slide3

    この10年間はずっとインド(青線)が首位になっています。確かに私もインドというと、貧困という開発途上国のイメージと、IT人材を対象に生み出すIT大国というイメージの双方があり、ICT4Dの研究対象としても選ばれてきたのも納得できます。

    その一方、2010年くらいから伸びてきて、2014年にはインドに追いついている国があるのに気がつきましたでしょうか?この辺りを見るべくインドを除く5カ国を拡大したのが次のグラフです。

    slide5

    この一気に論文数を伸ばしているのがケニアです。私がポスター発表を行った国際学会ICTDでも、2012年に初めてアフリカ(南アフリカのケープタウン)で開催され、アフリカの勢いを感じていたところでした。上位6カ国のうち4つがアフリカ、2つがアジアと、アフリカの勢いを感じるところです。

  2. 地域別トレンド
    次に地域別の比較です。

    slide6

    このグラフにある通り、アジアとアフリカで8割以上を占めています。面白いのが2014年に初めてアフリカが論文数でアジアを上回って一位になったということです。先ほどの国別傾向でインドが下がりケニアが伸びている影響も受けていると思いますが、ICT4D研究全体のトレンドとしてもアジアからアフリカに移りつつあると言えるのではないでしょうか。

  3. 多様性
    これまで地域と国の傾向を見てきましたが、特定の国に偏った状態なのか、色々な国で研究が行われているのか、シャノンの多様性指数を用いて比較してみました。

    slide7

    このグラフがその結果なのですが、徐々にですが指数が向上しているのが見て取れます。これは対象国が広がってきている(多様性が増加している)ことを示すもので、これまでインド一国集中だったものがインフラ発展の成果もあってか色々な国にICT4D研究が広がっているということになるかと思います。

では、これらの変化がなぜ起きてきているのでしょうか。今回の論文においてはそこまでは検討できてないのですが、考えられる仮説としては、例えば以下のようなものがあります。
・地理的な多様性はIT政策やインフラの発展に相関がある。
・一部の国(インドなど)で研究が終わってきたため、他の国にシフトし、多様性が増加している。
・誰かが新しい国で研究を始めると他の研究者も興味を持ち始め、多様性増加に貢献している。

これらについてはまた次の研究で調べてみたいと思いますが、インフラの発展もあってか、ICT4D研究もアジアからアフリカに少しずつシフトしつつあり、色々な国で行われるようになってきているようです。

 

ゲーミフィケーションの弊害

先日tomonaritが「ゲーム for Development」という興味深いテーマで投稿をしていたので、今回はあえてゲーム活用の問題点というテーマで書いてみたい。

教育などへのゲームデザインの活用はゲーミフィケーション(gamification)とも呼ばれ、注目されている分野の一つである。ゲーミフィケーションとは学習にインセンティブを与えることに非常に近く、ユーザ(生徒)にポイントなどの報酬を得ることによって、彼らの学習意欲を引き出そうというものである。この報酬はゲームによって様々で、ポイントなどのクラス限りで有効なものから金銭的な報酬、はたまた社会的な報酬など様々なインセンティブが考えられる。

tomonaritが紹介した世界銀行のEvokeなどは、ゲーミフィケーションの手法に加え、ユーザをワシントンに招待してアワードを授与するなどの金銭的報酬と社会的報酬を活用しているといえる。私のいる大学でも、ゲーミフィケーションを学部生向けの授業に取り入れるケースなどもあり、例えば、そのコースのゴールをボスを倒すためのポイント(ドラクエ風に言うなら経験値)を集めることとし、そのためのポイントを宿題やレポートを通じて集めるなどの手法も(試験的ではあるが)試されている。

確かにこのやり方で生徒の興味を引くことができて、宿題やレポートをこなすインセンティブにできるのであれば、教育手法の一つとして効果的とも言える。例えば、私自身もキーボードタイピングは「特打」というゲームで敵を倒すということを通じて楽しく学ぶことができたので、その効果は実感している。

ではゲームを通じた教育というのは万能なのだろうか?という点に焦点を当てた論文があるので紹介したいと思う。この論文は米国シラキュース大学のNicholson教授が書いたもので、タイトルは「A Recipe for Meaningful Gamification(有意義なゲーミフィケーションのための秘訣)」というものである。簡単にポイントだけまとめると、

人の学習モチベーションには2つの種類がある。一つは人間に本来備わっている学習意欲(内発的動機)、そしてもう一つは外部から与えられる学習意欲(外発的動機)である。このゲーミフィケーションによるインセンティブは明らかに外発的動機に該当する。

この外発的動機(インセンティブ)というのは短期的な学習効果にはよい結果をもたらすが、長期的な学習効果にはよい結果をもたらさない。むしろ長期的には悪い方向に働く可能性もある。大きな弊害としては、外発的動機が内発的動機を上書きしてしまうケースで、その場合は、人が本来持っていた内発的動機も失われてしまう。

例えば、英語を学習したいために英単語学習ゲームを始めたとしよう。最初は英語学習を目的にゲームをしていたものの、ゲーム内のポイントを稼ぐことが徐々に楽しくなってきた。その結果、何かしらの理由でポイントが失われた瞬間に、そのゲームを続ける意欲はもちろん、本来あった英語を学習するという意欲自体も失われてしまい、英語の学習が完全にストップしてしまった。といった例などがこれにあたると思われる。

つまり、ゲーム化などでインセンティブを与えることは短期的には学習意欲を引き出すのに効果的であるが、インセンティブを得れなくなった瞬間に、もともとあったはずの学習意欲もなくなるなど、長期的に見た場合に、学習が持続的でなくなってしまう懸念がある。なので、学ぶ目的が変わってしまわないようにインセンティブの与え方には注意しよう、というのがこの論文の提言である。

個人的にもこのポイントは的を得ていると感じる。ゲームに限らず、セミナーなどに参加してもらいたいがために過剰なインセンティブを与え続けると、参加の目的自体が変わってしまい、インセンティブを与え続けない限り参加してもらえなくなる、などはよくあるケースと思われる。

このようにゲーム活用の注意点は書いたものの、私はゲーミフィケーションによる意欲の刺激という点を否定するつもりは全くないので、ゲーム要素を使った開発効果の発言には興味もあるし、今後もこのテーマはフォローしていきたい。

(冒頭のImage画像はwww.forbes.comより転載)

Nicholson, S. (2015). A recipe for meaningful gamification. Gamification in education and business, 1-20.