カテゴリー別アーカイブ: AI

一歩先を見越したICT活用:WFPのmVAM

 

mVAM

Source: http://vam.wfp.org/sites/mvam_monitoring/#

ども、Tomonaritです。国連WFPが食糧不足などの状況をリサーチするためにとして携帯電話を使っているという話を聞いたので紹介します。

その名はMobile Vulnerability Analysis and Mapping (mVAM) 。上記の地図の青い国、約30カ国で使われている。仕組みとしては、音声通話とSMSを使って簡単な質問(商人に対して食糧の価格を質問したり、一般家庭に対して食糧確保や栄養状況など)をして、得た回答をデータベースにまとまるというもの。mVAMの仕組みを紹介する動画がYouTubeにあがっているけど、以下の動画(レソトの例)がとても現場感があって分かりやすい。「なんか凄いイノベーディブな取り組みなのか!?」と期待して動画を見ると、超地味に電話オベレーターが質問をしている感じに拍子抜けする。

この動画を見ても一体、どういう情報をとって、どいうアウトプットになるのかというイメージがわかない。でも、一例としてマラウイのレポートナイジェリアのレポートを見てみたら、とてもイメージがわいた。例えば、ナイジェリアでは食糧価格の動きを調査するために、特定の州の商人を対象に電話調査を行った話が書いてある。まず、2016年6〜7月に490名の商人に電話をかけて食糧価格を聞き取り、次に2016年12月に同じ商人(490名中416名)に再度電話をかけて食糧価格を聞き取り、再度、そのうちの378名にインタビューを実施している。結構、泥臭い作業だけども、思いのほか同じ商人にリーチ出来ている(378名/490=77%)のは凄いもんだ。日本と違って住所とかちゃんとしてないだろうに。

最初にどうやって電話番号を取得しているのか?という点については、商人についてはFace to Faceの調査で得た情報、一般家庭については携帯電話会社から得た情報を使っている。携帯電話のSIMカードを買う時に氏名や住所を登録しているので、ターゲットにしている地域の住民の番号はある程度取れるのだろう。勿論、SIMカードが転売されたり友達に使われたりということがあるので、登録情報が正しくないとこもあるが、おそらく携帯電話の位置情報でどこからのコールかは分るので、対象地域意外からの不要な回答は除外出来るのだろう。

電話を受けた人が質問に回答するインセンティブは?という点については、回答者には小額の謝金(50セント位)を払うケースもあるという。これは携帯電話の通話クレジットとして供与される仕組みだ。金を貰えるなら質問に答える気にもなる。

正直、自分の第一印象は「イノベーションって言うよりはテレアポ的な泥臭い手法だなぁ」というものだったが、「いやいや、ちょっと違うぞ」とすぐ思い直した。これまでは民間のコールセンター等を使ってオベレーターが電話をしているが、近い将来AIチャットボットを使って人じゃなくてコンピュータが電話調査をしてくれるようになる。そして収集したデータの分析もAIの力を借りてより簡単に出来るようになる。これは凄く簡単且つチープに調査が出来るようになるということ。そう考えると、現時点で人が電話調査を行い、ターゲット地域の人達に「電話調査ってこういうもんがあるのね」ということを認識させ、慣れさせておくことの意味はとても大きい。

mVAMの効果を考えると、「食糧不足とか栄養失調とかで困っている人達が住んでいるようなエリアには、携帯電話ネットワーク網が行き届いてないのでは?」とか「そういう人達って、そもそも携帯持ってないのでは?」というツッコミはある。しかしながら、mVANの効果は、現時点での利便性どうこうで善し悪しを判断するのではなく、今はいわばユーザへの啓発活動とも言える(電話調査ってもんを理解してもらう)準備期間なんじゃないか、と思った。

Uberによってタクシー運転手とのコミュニケーションは不要になり、Uberは無人タクシー導入の下地を作っていると言われる。同様に、今後のICT4Dは、課題解決のために今有るテクノロジーでどう対処するか?ということを考えるだけでなく、一歩先の将来により一層の効果を発揮出来るにはどう対処するか?ということも同時に考える必要があるのだと思ったのでした。

AI時代に大切なのは?

SDG4

東洋経済オンラインで、AIを使った学習塾「Qubena(キュビナ)アカデミー」が取り上げられていました。先日、エチオピアのアジスアベバでもAIを取り入れた学習用タブレットの試行がなされていると紹介しましたが、日本でもかなり進んでいるようです。

Qubenaアカデミーでは、生徒は塾に来てタブレットを使って勉強をするスタイル。その問題の出し方はAIが考えており、生徒が問題を間違えると、その間違え方をAIが分析し、つまづいたところが分るようになる問題が続々と出題され、それを解いていくと最初に間違えた問題も出来るようになるというもの。一方、間違えない子はどんどん難しい問題へステップアップできる。なんと「学習スピードを7〜10倍にまで高められる」らしい!(超ざっくりな説明なので、詳細は上記リンクから元の記事を見てもらうと、もっと「スゲぇーなー…」という感じが伝わると思います)。

特に自分が面白いと感じたのは、この会社の社長さんが塾という形態に拘っている点。このやりかたなら「先生いらないじゃん?」と思うのですが、社長さん曰く、講師は生徒のやる気を出したり、メンタル面をサポートする「コーチング」の為に生徒の傍らに寄り添う必要あるという。確かに科目を教えるという「ティーチング」は AIに任せられるが、「コーチング」は生身の人間が必要だろう。

いきなり生活感溢れる話題になりますが、我が娘(小学校1年生)もおだてないと宿題をしないです。そして、漢字が分らないうちの奥さん(←エチオピア人なんでね)が傍らで「へー、こんな難しい漢字も書けるんだね。すごいねぇ!ママは読めないよ〜」とおだてる役をやってそれなりに上手く娘の気分をノセてます。

「モチベーションを上げる」という点で最近読んだ尾原和啓氏の「モチベーション革命」という本の記載を思い出しました。以下、引用です。

“AIによって世の中はいかに変わるのか。作業的に、効率的に、合理的に仕事を進めるうえでは、人間はもうロボットには勝てないでしょう。しかし、世界を変えるような新しいサービスや画期的なイノベーションは、1人の人間の偏愛によってしか生まれません。
これからは、この偏愛こそが人間の価値になる時代です。好きなことをやり続けることこそが最大の競争力になるのです。”(第2章「偏愛こそが人間の価値になる」より)

合理的、作業的なことは人間はAIには勝てないが、「なぜか自分だけが頑張る意味が持てる」という偏愛によるモチベーションは、人間にしかなく、それが人間の強みだという話が書かれています。

最初の話に戻ると、今後、先生に求められるスキルは、教え方のスキルじゃなくて、子供の関心をどんどん延ばして、色んなことにチャレンジするモチベーションを上げるというコーチングになっていくのだと言う点はとても納得(これまでもコーチングは先生のOne of themのスキルだったはずだし)。

「詰め込み教育」から「ゆとり教育」に変わり、その反動でまた最近は「詰め込み教育」の傾向にあるけれど、AIが学習スピードを早めるくれるなら、「詰め込み」の学習量で知識を高め、且つ、「ゆとり」が目指した「生きる力」を育む時間もとれるようになるのではないか、とAIによるポジティブな影響に期待したい。

AIによって職を奪われるというネガティブ論もあるけれど、教育分野に限らず、やらないといけないけど面倒な仕事はAIにお任せし、やりたい仕事に集中出来るようなるというのが、理想的なAIの活用方法だと思う。ただ、そのためには自分のなかで「やりたい仕事」が明確にあるのが前提条件なので、「偏愛によるモチベーション」を大切にしなければ・・・!と思う訳です(←自分自身への自戒も含めて)。

ICT4D分野は、この先10年位が一番面白いかも

先週、「大企業のBOPビジネス卒業式~BOPビジネスの幻想とSDGsへのバトン~」という勉強会に参加しました。インドで苺栽培に取り組むNEC、マラリア予防の蚊帳(オリセットネット)を展開する住友化学、インドでビジネス創出のプラットフォーム構築に取り組むリコー、クロスフィールドの留職プログラムも使いつつ途上国でのビジネスに取り組むパナソニック、といった大企業の方々が、「BOPビジネスに取り組んだ結果、どうだったの?ホントに儲かってんの・・・?」という疑問に答えてくれるような内容でした。

この疑問に対する答えは、「やっぱり儲かんない」という感じのもの。オリセットネットはドナーが大量購入しておりちゃんと儲かっている点ではビジネスとしては成功。でも、途上国の貧困層をターゲットとしたB to CのBOPビジネスとしては、やはり成功とまでは言えない感じ。他の3社については、大企業が取り組むビジネスとして採算が取れるレベルでは儲かっていないというのが実情。残念だけど、これが現実、という点は納得感がある。

グループディスカッションの場もあり、他の参加者の方々とも色々と意見交換することが出来た。その中で、「やっぱBOPビジネスは儲からない」、「CSRとして企業イメージアップのためにやるのが限界」、「現地を知らず、コストの高い日本人が汗かいてやるより、現地企業を買収したほうが早い」、といった意見も。残念だけど、いずれも納得感がある。

それでも、バングラデシュのグラミンフォンとかケニアのM-PESAとか、数少ないサクセスストーリーの響きは良く、この分野に興味・期待を持っている人は少なくないと思う。実際、この勉強会は参加費が2000円だったものの、100名位が参加していた。

正月早々の日経新聞に途上国ビジネスの特集が掲載されていた。その記事ではケニアのM-PESAの利用者は3千万人を超えたが、一方、世界で金融サービスを利用出来ない成人は20億人。同様に安全な水にアクセス出来ない人は21億人、清潔なトイレにアクセス出来ない人は45億人、ネットを使えない人は40億人など、まだまだ満たされないニーズは山ほどあるというような事が書かれていた。さらに、シンガポールの大手商社オラム・インターナショナル社がガボンの農園でドローンを飛ばし、農作物の育成状況を監視し、ビッグデータを使って肥料散布のアドバイスをするサービスを展開している事例などが紹介されていた。

今、SDGsの背景からも途上国ビジネスへの注目が高まっているが、これだけ途上国ビジネスが注目を浴びている背景には、やはりテクノロジーの発達が大きいと思う。以前からニーズはあったもののビジネスを展開出来る術がほとんとなかった状況が、今はテクノロジーのお陰で「出来るかも?」というふうに変わっている。そして今後さらにテクノロジーの発展により社会が大きく変わって今は想像出来ないサービスが生まれるので、「イノベーションが起きれば実現可能!」と期待感も高まる。最近、やたらめったら耳にするイノベーションって言葉には違和感(そんな誰でも起こせないからイノベーションなのに、とても普通に使われている感が否めない)を感じるものの、「ニーズ・課題が沢山あって、それを解決出来そうなツールもある」という今の時代に生きているというのは結構恵まれていると思う。

最近、「現代の魔法使い」落合陽一氏の「これから世界をつくる仲間たちへ」という本を読んだら、以下のようなくだりがあった。

“たぶん、2030年代ぐらいの近未来の若者たちは、2010年代という過去を羨ましがるに違いありません。『20年前は、まだコンピュータで解決されていない問題があったらいいよなぁ』というわけです。”

こんなふうに思うと、「BOPビジネスは儲かんない」とか、このブログでも良く取り上げるように「ICT4Dプロジェクトは失敗に終わる…」と悲観的にならずに、諦めずにテクノロジーを駆使して成功させる道筋を考えられるのは今だけのような気もしてくる。

冒頭の勉強会でオリセットネットについてプレゼンをした住友化学の山口くん(←自分のエチオピアの青年海外協力隊の追後輩でもある)が、「今後はどうしたらマラリアを撲滅させる事が出来るかAIを活用して対策を考えるようなこともトライしたい」と言っていた。確かにそういう使い方もあるなぁ、AI。ICT4D分野は、この先10年位が一番面白いかも。時代の流れに取り残されないようにせねば・・・!

ちなみに、この話題にあまり関係ないけど、冒頭の写真はエチオピアの首都アディスアベバで行われている、タブレットを利用した人工知能プロジェクト「ヤネト(YaNetu)」。多分、YaNetuはアムハラ語で「私と一緒に」という意味かな。下の動画に出て来るアバターの先生の顔、ちょっと怖い(笑)

Structural Data Justice(データ活用の妥当性)

久しぶりにManchester大学のWorking Paperを読んでみた。「A Structural Model and Manifesto for Data Justice for International Development」というタイトル。100%理解出来た自信はないけど、自分なりの気づきを書き留めておく。

Source: Heeks (2017) "A Structural Model and Manifesto for Data Justice for International Development", Development Informatics Working Paper, No.69, University of Manchester. [http://www.gdi.manchester.ac.uk/research/publications/di/di-wp69/]

Source: Heeks (2017) “A Structural Model and Manifesto for Data Justice for International Development”, Development Informatics Working Paper, No.69, University of Manchester. [http://www.gdi.manchester.ac.uk/research/publications/di/di-wp69/]

このペーパーの目的は、Structural Data Justice(SDJ)を分析するモデルを提案するものなのだが、そもそもSDJって何だ?という感じ。

読んでみた自分の理解では、組織、社会、政府などがデータに基づく判断・行動を起こすときに、「そもそもどういうプロセスでその判断・行動に落ち着いたのか?」そして「そのデータに基づく判断・行動にはどれくらい妥当性があるのか?」という「データ活用の妥当性」的なもの。そして、上記のモデル(まだ改良途中のもの)がそういった疑問に応えるためのレンズになりえるという提案。

議論の大枠としては、インドとケニアでのデータ活用の事例を用いつつ、以下2つの視点から「データ活用の妥当性」を測るモデルを提案している。

  1. 世銀のWDR2016を始め色々なところで主張されている「ICTは色んな可能性を秘めているけど、最後は人間力」という前提で、「データ活用」と一言で行ってもその活用を決めるのは人間、その活用の技術的なクオリティを上げるのも人間、データから導き出された結果をどう活用する(判断・行動する)のも人間という視点(上記の図の「Capabilities」(人間の能力)の円)
  2. データ活用が吉と出るか凶と出るかは組織や環境(制度的側面、政治的側面(組織や人間の力関係)など)にも大きく左右されるし、また、逆にデータ活用が組織や環境にも影響を与えるという視点

例えば、インドの電力会社が電気料金未払いを防ぐために各顧客先に料金メーターを設置し、データを自動的に吸い上げることを始めたが、未払いが多いのは貧乏人ではなく、金持ち住む地域だった。政治力のある金持ち層から厳しく徴収が出来ない背景が浮き彫りに。そして、電力会社がそのデータを公開し厳しく取り立てするのか否かは、人間の判断によるわけだ。

また、ケニアのスラムの状況を把握するため、スラムに住む住民情報をGIS上にマッピングして彼らの生活改善に活用する試みがある。似たようなプロジェクトのアイデアは自分もガーナ時代に聞いた事がある。勿論、良いプロジェクトだ。例えばそのデータに基づいて、「この地区ではスラム住民が多くバスを利用しているから、路線を増やそう」とバス会社が判断したとする。バス会社にとってもスラム住民にとっても良いことだろう。でも、「そもそもどうしてスラムに不法に居住しなけばならないのか?」、「彼らは元の住居から不当に立ち退きされたのでは?」という根本的な問題から目を逸らすことになっていないだろうか。データ活用においてどの側面に光をあててるのか、それによって陰となる側面は何か?という判断も人間がするものだ。

ふと、先日やっていたNHKの番組「AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン」が波紋をよんでいた件を思い出した。この番組は「AIに聞いてみた」という体で日本の社会問題への解決案を紹介するもので、自分も行きつけのスーパー銭湯のサウナで楽しく見ていた。が、紹介されている解決案はAIが導き出したというものではなく、番組制作側が推している解決策をデータの相関関係を根拠に紹介してたということで、後から非難の声が。(この件については詳しくは東洋経済ONLINE「NHK渾身のAIが炎上した必然」を見てもらいたい)

要するにデータをどう見せるかは共有側の知識・能力次第であり、それを信じるのか疑って見破るのかも受けての知識・能力次第ということだ。そういうセンスがないと騙されてしまう。

このペーパーの最後に、Data Justice for Development Manifestoとして12個の提言がされているが、中でも「Build upstream and downstream data-related capabilities among those who lack them in developing countries.」という点が非常に重要だと感じた。