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UNDP人間開発報告書2015からのICT4Dトピックス(その2)

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前回の投稿に続いての「その2」です。

技術革新が仕事におよぼす影響について特に途上国の視点から、UNDP人間開発報告書の内容を拾っていきます。

まずは、技術革新(とくにICT)による大きな変化について。

  • 世界のフローにおいて知識集約型の財・サービスが中心を占めるようになり、資本集約型・労働集約型の財・サービスを上回るペースで増加している。現時点で前者は世界のフローの半分に達し、さらにその割合を増している。知識集約型財のフローは知識集約型財のそれの1.3倍のペースで増加している。(P101)
  • その結果として、財・サービスのデジタルなフローも増加している。実際、「アプリ経済」という言葉が示すように、今や多くの財が完全にバーチャル化している。(P101)
  • 調査研究によると、2013年時点で米国だけでもアプリ経済が75万人に何らかの形の仕事をもたらしていた。(P105)
  • 近年、知識が生産に対して中心的な意味を持つようになった。製造業でも組み込まれた知識によって最終製品の価値が決まる度合いが増している。例えば、スマホ最上位機種の価格は、部品と組み立てコストよりも高度な設計と技術に要したコストのほうが大きな部分を占めている。(P107)
  • 2012年の数字で知識集約型の財・サービス・金融の取引のほぼ半分において、その価値の大きな部分を研究・開発と熟練労働が占め、その価値はほぼ13兆米ドルに達している。そして、知識よりも労働力・資本・資源を集約した製品・サービスの割合が下がる一方で、知識集約型の製品・サービスの割合は着実に増している。(P107)

そして、デジタル化されたサービスの特徴について。カッコ内は自分の補足説明です。

  • (デジタル化されたサービスを一旦開発すると、その複製は極めて楽チンになるとう話)ローコスト、あるいはゼロコストでの複製は仕事の成果に対するアクセスを広げるが、新たな雇用はほとんど生み出さないかもしれない。(P105)
  • (新たな雇用を生み出さない例として)ツイッターの月間アクティブユーザー数は、2015年3月時点で3億200万人に達し、1日5億件のツイートを通じて情報やニュースが生成・拡散される一方で、ツイッター社の従業員数は、3900人にすぎる、その半数を技術者が占めている。(P105)
  • デジタル経済の第2の特徴として、人々が消費する財・サービスの一部は消費者自身によって生産される。つまり消費者が「プロシューマー(ProducerとConsumerの合成語)」になる。(P105)←これはWeb2.0とかICT4D2.0の話と同じ。
  • その最も直接的な事例が、7万3000人超えのボランティア執筆者を擁するウィキペディアだろう。無料オンライン百科事典のウィキペディアは、2012年に244年続いた活字出版の幕を閉じた「エンサイクロペディア・ブリタニカ」などの有料情報サービスと直接的に競合している。(P105)
  • いくつかの形で仕事のプロ化に逆転が起きている。(P106)

最後に最終的に仕事にどういう影響があるか?AIやロボットの能力が上がっていくと、それに取って変わられる職が沢山あるよね、という話。

  • これまでに多くの国が、利益率の低い労働集約型の製品から電子機器の組み立て、そして高度な製品や設計、管理への移行を果たしてきた。開発プロセスが遅れて始まった国々は、「早すぎる脱工業化」さらには、「無工業化」にも直面している。今や製造業が多数の職なき人々を吸収することはできない。(P108)
  • 新技術がもたらす真の影響は、低技能の労働者の需要減と高技能の労働者の需要増である。(そしてそれが)仕事の機会の二極化を引き起こす。中間部分ではオフィスと工場で多くの職が着実に空洞化していくことになる。(P116)

上記の指摘は、以前の投稿「IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ、ドローン、新たなテクノロジーは途上国を豊かにするのか?」でも記載したように、自分もまさに同じことを考えていたのですんなり頭に入って来た。特に、東南アジア諸国が発展したような、日本など先進国の工場を誘致して、雇用を生み出すとともに、そこで働く労働者がスキルアップして行き、スピンオフして起業したりしながら、国の産業レベルが上がって行く…といった開発モデルは、途上国の工場ロボットをIoTで先進国から遠隔監視する仕組みやAIの活用、データだけ送れば3Dプリンターで製品が出来てしまう…という技術革新によって、成り立たなくなりつつある。アフリカなどのこれからの国は、これまでの開発モデルに代わる新しい開発モデルを模索する必要があるのだろう。この報告書では、以下の点がそれに関連している。

  • デジタル・リテラシーの重要性が増している。(P108)
  • デジタル革命とグローバルなつながりを人間開発の向上へと導くためには、市場の機能だけでは不十分なはずである。このような機会をより良く活かすために、国レベルと世界レベルでの公共政策と施策が必要とされている。(P121)

上記が、この章のまとめになっているのですが、以下、「仕事の機会の二極化」に関連して、個人的に驚いた点も追加します。

  • 世界でも最も裕福な上位1%が世界の富全体に占める割合は、2009年の44%から2014年の48%へ増加し、さらに2016年に50%を超える見通しにある。(P119)
  • 例えば、米国のCEOの報酬と一般労働者の報酬の対比は、以下のとおり(P120)
    • 1965年   20:1
    • 1978年   30:1
    • 2000年 383:1
    • 2013年 296:1

この数字を見ると、「途上国支援の問題は、上位1%の人達でどーにかして下さい」と自分の仕事の意味に疑問を感じてもしまいますが、これが現実。テクノロジーの発展がこれに拍車を掛けるというなら、ますます途上国に課せられた課題は大きいものだと感じます。

ちなみに、

  • デジタル革命はあらゆる種類の革新を安く速く可能にしている。このことは、過去数十年間の特許登録件数の増え方に映し出されている。1970ー2012年の間に、米国特許庁に認められた特許の件数(米国と他の国の総計)はほぼ5倍に増加した。コンピュータとエレクトロニクス分野における革新がこの増加の中心を占めた。特許登録全体に占めるその割合は、1990ー2012年の間に25.6%から54.6%に増加した。(P110)
  • 2013年の特許登録件数の上位12カ国は、以下のとおり。(P110)
    • 1位:日本
    • 2位:米国
    • 3位:中国
    • 4位:韓国
    • 5位:ドイツ
    • 6位:フランス
    • 7位:ロシア
    • 8位:英国
    • 9位:イスラエル
    • 10位:インド
    • 11位:イラン
    • 12位:シンガポール

おおっ!日本が1位になってる!
と言うことで、日本がICT4D分野(←狭いプロジェクトという意味でなく、むしろ上記のような途上国が直面している課題に対する解決の支援の方で)で途上国支援をしていく意義って、結構あると改めて感じました。

消費者からプロデューサーになる道とは?

先日、ICT4D関連の本のChapter募集があったので、2〜3ページのプロポーザルを書いて応募してみた。デンマークの大学教授が編者となるこの本のタイトルは”Handbook on ICT Policy for developing countries”というもの。5Gに代表される最新テクノロジーが特にアフリカを中心とする途上国にどういう影響をもたらすのか?恩恵をうけるにはどんなICT政策が必要なのか?という結構大きなテーマの本。

ここ最近の自分の関心は、以前の投稿「IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ、ドローン、新たなテクノロジーは途上国を豊かにするのか?」で書いたように、ますます世の中を便利になる最新技術は、能力の高い個をエンパワーする一方で、相対的に能力の低い国そのものは期待ほど豊かにしないんじゃないか?という点。テクノロジーが発展し国境によるハードルや物理的な制約がなくなればなくなるほど、シンプルな競争が起きて、途上国は先進国の大企業の市場にしか成り得ず、自国の自力(技術力とか創造力とか)が発展しなくなってしまうのではないか?という懸念。

例えば、Googleは途上国での携帯電話やネット利用の普及のために、Android Oneという製品を展開している。これによって途上国の人々も手の届くスマホが販売されネットが使えるようになり、人々の生活は便利になるのだろう。そしてそれと引き換えに、途上国の携帯メーカーがAndroid Oneと組むことによって、自国でのAndroidにとって代わる製品が出て来る可能性はかなり薄くなるのかもしれない。

Amazonやアリババでネット越しに海外から何でも買えたり、データを購入すれば3Dプリンタにデータを流すだけで製品が作れるようになれば、途上国でも生活は便利になるが、消費者の立場から這い上がることはとても難しくなる。途上国でもIoTやビッグデータによって農業生産性や漁業の生産性が向上すると期待されているが、そのデータ分析ツールは先進国企業のクラウドサービスを使い、データは先進国のデータセンターに保存されるだろうか。

勿論、テクノロジーによって途上国の人達も先進国の人達と対応に競える同じ土俵には立ち易くはなった。AndroidやiPhoneが普及したからこそ、途上国の人達も簡単に自分達で作成したアプリを世界市場に向けて販売出来るようになったし、AMP Musicの取り組みのように、途上国発のプロダクトが世界市場にアクセス出来るようになった。

それでもApp Annieの調べによると、2015年に世界で売れたアプリTOP52のうち、日本・中国・韓国の企業が28社を占めており、その他は米国やヨーロッパで、いわゆる途上国の会社は入っていない。あれだけ人口の多いインドの会社もない。

自分が大学院で学んでいた当時(今から約10年前)、ICT4Dの失敗事例の多くは、先進国のソリューションを環境が全く違う途上国に持ち込んだことによって生じている、といった分析・主張をしている文献を多く読んだ。だから途上国には途上国に合ったソリューションが必要だという意見。それは正しいと思う。

でも今後は、というか既に、先進国の企業は、先進国でも途上国でも利用出来るソリューションを生み出し、それが世界中で使われるようになっている気がする。Facebook, Twitter, What’s up, などなど。ちなみにUberも2012年に南アフリカで使われ始め、その後、ラゴス、ナイロビ、カイロでも利用できるようになった。

当時の失敗事例の原因の1つに良く指摘されていた問題に識字率や現地語の問題がある。途上国のユーザは現地語を主に使っており英語があまり出来ないのに導入したICTシステムは英語にのみ対応していたとかいった問題である。しかし、今スマホを買えばかなりマイナーと思える言語まで対応しているし、FacebookでもGoogleでも相当な数の言語に対応している。動画やスタンプなど言葉がなくても通じるコミュニケーションもかなり発達してきた。そのうち途上国の環境に合うようにカスタマイズされたソリューションはそれほど重要じゃなくなるのかもしれない。そうなると途上国はますます消費者・ユーザの立場に落ち着いてしまう。さらに、得意の労働集約型のビジネスもロボットやAIに取って代わられてしまうのかもしれない。

そこで思うのが、「じゃ、どうしたら良いのか?」ということ。自国の技術力を高めるために人材育成に投資するとか、イノベーションを起こす為に産官学連携を促進するとか、そういった地味時な努力は重要だろう。そして、もう一つのアプローチとしていかに「独自の市場を確立するか?」という点じゃないかと思う。

M-PESA、Ushahidi、e-sokoなどに代表されるような途上国発のソリューションを生み出すのは簡単じゃないが、アフリカでは既になかなか個性的なアプリが誕生している。例えば、ガーナ発のmPedigreeというアプリは、偽物の薬か本物の薬かを見分けるツール。処方された薬についているシリアル番号を入力すると、製薬会社のデータベースに照会されて、それが本物かどうかがわかる。偽物が蔓延るアフリカにおいて、偽物を掴まされたくない消費者と偽物が流通することによって利益を損なう製薬会社のお互いのメリットをマッチさせた上手い仕組みだ。また、ナイジェリアのAfrinollyというアプリは、Nollywoodと称されるナイジェリア映画を見るためのアプリだ。いくらYoutube等でHollywood映画が無料で見れる時代でも、やっぱりナイジェリア人はNollywood映画も見たいってことなんでしょう。

単純にニーズといってしまうとシンプルすぎだが、文化とか嗜好とかを汲み取って、独自の市場を掘り起こし自分達にしか作れないサービスを発展させていけば、単なる消費者からプロデューサー(クリエイター、イノベーター)になる道が残されるのかもしれない。さらにECOWASとかEACなどの地域経済共同体としてそういう独自市場を発展させるというもの面白いかもしれない。

と、上記のような自分の関心をプロポーザルにして応募してみたら、嬉しい事に「じゃ、Full Chapter書いて見て。8000語!」という返事が来ました。嬉しい反面、8000語にチャレンジするのはかなり大変・・・(汗)。でも頑張ろうと思います。ということで、コメント、ツッコミ、有益情報など、何でも大歓迎ですので、こんな視点もある、あんな事例もある、というネタをお持ちの方、是非コメント下さいまし!

IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ、ドローン、新たなテクノロジーは途上国を豊かにするのか?

携帯電話やスマホを通り越して、IoT、ビッグデータ、AI、3Dプリンタ等、ここ最近の新たなテクノロジーの盛り上がり様は目を見張るものがある。そして、それらの新しいテクノロジーが途上国開発でどのように活用されるのか?というのも非常に興味深いところ。

そんな風に思っていたら、マラウイで幼児のHIV検査をよりスピーディに行うために、ドローンを使って検体を運んだり、その検査結果を運んだりという試みが開始された。スポンサーはUNICEF。

テクノロジーの発達によって、人々の生活が便利になったり豊かになったりというのは非常にありがたい事だと思いつつも、その発達が途上国にどう影響するのか?を考えてみると、決して良い事づくしではないと思う。

最近、野村総研が出している「ITナビゲーター2016年版」という本を読んだ。そのなかの記載を元に、その他日経新聞等の記事も参照しつつ、新しいテクノロジーが途上国に及ぼす影響を想像してみたい。以下、クォーテーションで囲まれた部分は「ITナビゲーター2016年版」からの抜粋です。IoT

  • IoT

2016年5月13日の日経新聞によると、「米IT大手シスコシステムズの試算によると、ネットワーク化されたデジタル機器が相互に対話する「インターネット・オブ・シングス(IoT)」によって2013年から22年までの間に世界で14兆4000億ドル(約1540兆円)の企業利益が生み出され、日本はこのうち7610億ドルを占める見通しだ。」とのこと。

盛り上がりを見せているIoTだが、果たして世界で14兆4000億ドル(約1540兆円)の企業利益のうち、途上国が手に出来るのはどれだけなのだろうか?

  • ビッグデータ

“調査会社IDCによるデジタルユニバース(地球上で生成されるデータ全体の世界)に関する調査によれば、2013年から2020年の間で世界の総データ量は4兆4000億ギガバイトから44兆ギガバイトへ拡大すると見込まれている”

なるほど。単位があまりにデカ過ぎて良くわからないが、とりあえず世界の総データ量は2020年には10倍位になっているということか。しかし、それらを牛耳るのはGoogle, Amazon, Appleといった先進国企業。実際、2016年5月12日の日経新聞では、EUがGoogleやAmazonなどの米国ネット企業に対しての取り締まりを強化しているという記事があった。ビッグデータの利用が一部の米国企業に独占されてしまうこと懸念してもいるということ。途上国は米国企業にデータを提供する以外に、どんな役割を担えるのか?どんなメリットを得られるのか?

ICTWorksに、USAIDがリアルタイムデータを途上国開発にどう活用出来るのかについて、事例を募集しているとの投稿があったが、どんなメリットを得られるのか?勿論、途上国支援をしている援助機関の立ち場からなら、より精緻なモニタリングが出来るとか、支援を集中すべき最も困っている地域が明確にわかる、といったメリットはあるが、援助の枠組み以外ではどんなメリットがあるのか?

  • 3Dプリンタ(オンデマンド生産)

“オンデマンド生産のサービスモデルは、従来はメーカーが製造・在庫管理しさらに物理的な輸送手段を経て入手しなければならなかった交換用バーツを、ユーザー宅などにある3Dプリンターにデータを送信することで直ちに手に入れられるというものである。”

ここから想像出来るのは、これまで途上国で入手困難だった機材のスペアパーツが途上国でも作れるようになるという便利さ。さらに未来を想像すると、スペアパーツに限らず多くのモノがオンデマンド生産可能となる場合、輸送コストがかからない分、より安価で色々なモノが入手出来るようになる一方、途上国にはモノ作りのノウハウが全然培われないという負の側面も。また、先進国のメーカーとユーザー(のかなり近いことろ)の距離が縮まることで、途上国の輸入業者や仲買業者は仕事を失う可能性も。

  • ロボット

アマダ、金型で無人工場 — IoT活用で納期半減 —」という記事が2016年5月12日の日経新聞にあった。ロボット技術の革新は生産工場における人員削減に繋がる。そして、多くの途上国(日本のメーカーなら中国や東南アジア)における工場でも、人員削減が行われることは容易に想像がつく。

  • AI(人工知能)

“IBMのワトソンが金融機関のコールセンターに採用され始めている。顧客からの問い合わせに対して、的確に回答を返すための回答候補リストを、可能性が高い順から表示したり、問い合わせの断片的情報から、オペレーターが追加的に聞くべき内容を指示したりするシステムである。”

“1ヶ月以上かかるような金融や情報通信分野の高度なコンタクトセンター業務であれば、ワトソンの導入実証実験の結果、業務効率が10%程度向上することがわかったとされる。2050年にかけては、一部のコンタクトセンター業務は完全自動化され、人手を介さずに回答されるようになっていると想定している。”

コールセンターといえば日本に取っては中国や東南アジア、米国にとってはインド、最近ではバングラデシュも。そして、モロッコ等の仏語圏アフリカが対ヨーロッパのコールセンター受注をターゲットにしていたりもする。しかし、AIの進歩によっては、わざわざ途上国にコールセンター業務を依頼する必要がなくなったり、依頼したとしても今よりも遥かに少ない雇用しか生み出さないのかもしれない。

以上のように見てみると、敢えて批判的に想像してみたからというのもあるが、あまり明るい未来が見えてこないと思うのは自分だけだろうか・・・。以前の投稿「ICT4DからDigital Develpmentへ」でも言及したように、結局、途上国と先進国の格差は、新たなテクノロジーによってさらに広がって行ってしまうのか?

“人口知能は、人間の能力を代替する機能である以上、代替される人間は、生き残るために、さらに高い能力を要求されるという皮肉な構造になっている。”

ということが「ITナビゲーター2016年版」に書いてあったが、まさにそのとおり。代替されないためには、高度な能力が必要。途上国では今後新しいテクノロジーに代替されない人材育成をどう進めて行けるのかに、今後がかかっているのかもしれない。

ICT4DからDigital Developmentへ

マンチェスター大学Heeks教授のブログにて、ここ最近頻繁に使われるようになっている「Digital Development」とこれまで使われて来たICT4Dという言葉について、途上国開発におけるICTの立ち位置(期待、役割、課題等)がまとめられており、とても興味深かったので以下、紹介したい(詳細については是非、Heeks教授のブログを直接読んでもらえればと思います)。

ICT4D時代(これが今までの途上国開発におけるICTの立ち位置:便宜上ICT4D時代と言ってみます)とDigital Development時代(こちらが最近(最新)の途上国開発におけるICTの立ち位置::便宜上ICT4D時代と言ってみます)といった感じで捉えてもらうと分かり易いかと。そして、以下がその2つを比較し、どう変化したかを示す表(ICTs for Development Blogからの抜粋)。すこしボリュームがありますが、一見の価値有り。何となくは気づいていたという程度の概念が文字に落とされてより明確になった感じがします。

META-ISSUE ISSUE ICT4D DIGITAL DEVELOPMENT
Development Development goals MDGs SDGs (Inclusion, Sustainability, Transformation)
Nature of development International Development (global South) Global Development (universal)
Technology Infrastructure Partial (individually-connected ICTs; global North dominant presence) Ubiquitous (cloud-based “digital nervous system” of converged ICTs; global South dominant presence)
Key technologies PC, internet, mobile phone Smartphone, broadband, sensor, 3D printer
Focus Conspicuous artefacts, devices Data, information (artefacts become unobtrusive, tacit in life)
Data Text-dominant Audio-visual-dominant
Development Application Development role Tool for development Platform and medium for development
Development models “Development 1.0”: digitising and improving existing development processes

 

“Development 2.0”: redesigning development processes and systems (users as digital producers, the power of the crowd, digital participation, network structures, data-intensive development, and open development)
“Intensive development” and discrete digital economy “Extensive development” and pervasive digital economy
Innovation model “ICT4D 1.0”: inclusive pro-poor (laboratory), semi-closed, linear “ICT4D 2.0”: inclusive para-poor/per-poor (participative, grassroots), semi-open, agile & iterative
Development Systems Development geography Places and nodes Spaces, hybrid places, relations, and flows (breakdown of time/space barriers)
Development structures Linearity: hierarchies and chains Complexity: multi-scalar, interconnected (but still hierarchical) networks and ecosystems
Networks: local, national; simple and loose-connected; physical Networks: transnational, global; complex and inter-connected; physical and virtual
Generic impacts: stability, development Generic impacts: volatility, ripple of shocks, uncertainty, precariousness, potential regression
Development processes Human (decisions & actions) Smart (algorithmic decision-making; automated action)
Development logics Closed-dominant Form (models/structures) and practices (processes) change but still closed-dominant
Development Agency Capabilities Digital immigrant Digital native
Technology usage Partial, intermittent Digital immersion
From physical collective to individual use (introspection) From individual to virtual collective use (performance)
Development Impacts Economic development Enhanced capitalism Frictionless capitalism
Political development Accelerated liberalism Accelerated pluralism
Impacts worldview Positive Positive and negative
Development Policy Policy structures Feudal: partly-mainstreamed (cells within sectoral silos) Federal: fully-mainstreamed (foundation to all sectoral policy/strategy) & sidestreamed (cross-cutting coherence)
Development issues Inclusion: digital divide (absolute exclusion) Inclusion: network position (relative exclusion and adverse inclusion)
Sustainability: of ICT4D projects Sustainability: of development; resilience
Transformation: only digitisation and improvement as potential impacts Transformation: redesign and transformation as potential impacts
Value chain focus Readiness to Uptake as constraints to positive impacts Impact: positive and negative
Development Informatics Research Research issues Incremental impacts: digitisation and improvement of traditional development Disruptive impacts: redesign and transformation, including digital economy and digital politics
Readiness and adoption Political economy and digital harm
Technology and context Agency, institutions, and structural relations
Conceptual models Traditional disciplinary conceptions Network models, complex adaptive systems
Digital divide models Political economy models
Technology acceptance model Institutional logics

そして個人的な気づきの点を以下、いくつか書いてみます。

途上国でのICT普及は先進国のICT企業を太らせるためのものなのか?

上記の表のDevelopment Applicationの中のDevelopment Roleを見ると、これまでのICT4D時代には「Tool for Development」となっていますが、それがDigital Development時代には「Platform and Medium for Development」となっています。このPlatformという点について、先日、ICT4Dに絡むコンサルタントの方と話していた時、以下のような話がでました。

途上国でICTが普及しても、その利活用のプラットフォームを押さえているのは先進国(特にアメリカ)の企業。Google, Facebook, Twitter, Amazon, etc.。途上国においても誰もが簡単にICTサービスを活用して便利になるのは確かだけれども、それで特をしているのは先進国企業であり、その規模に比べて途上国側のメリットは(勿論、あるけど)非常に限定的なのでは?そして、IoT、AI、ビッグデータ等の新たなテクノロジーによって、より一層その傾向(つまり、プラットフォームを制する者しか得しない)が強まるのではないか?

最近、IoTはこれでもかという位、ほぼ毎週日経新聞に記事が出ています。有名なのは建機のコマツがセンサー付き建機を販売し、部品交換などの時期を把握して適切なメンテナンスサービスを提供するビジネスをやっています(KOMTRAX)。別の例では、製造業では途上国の生産工場をIoT技術でリモート監視・コントロールすることで世界中の工場を効率よく運営することが可能になり、人件費削減にも繋がるといったことを日本や欧米企業がやっています。このようなIoT技術でのリモート監視・コントロールは、製造業だけでなくあらゆる分野(運輸交通、電力、水道などの公共インフラ分野など)でも導入されていくでしょう。そうなると、途上国でも機材のメンテや公共インフラの運用がより適切に実施出来るというメリットがある一方で、その国における技術者のレベルアップや技術の底上げが出来にくくなるというデメリットも生じるのではないかと思います。

世銀のWDR2016に述べられているように、ICT技術は既存の能力を増幅させる効果がある。だけども、それは、そもそもの既存の能力が高い国に低い国がいとも簡単に負けてしまうという構図。これまでは通信環境がイマイチ故に、現地の技術者育成が必要だったのに、通信環境やテクノロジーが発展すればするほど、現地の技術レベルが関係なくなり、途上国は先進国企業が提供する便利なサービスを購入するユーザという位置に固定されてしまうのではないか?

FocusがDeviceからData, Informationへ!とも言い切れない?

上記の表のTechnologyの中のFocusを見ると、これまでのICT4D時代には「Device」となっていますが、それがDigital Development時代には「Data, Information」となっています。この点は確かにそのとおりと納得感もあるものの、一方で、広い意味でのDeviceとしては、ウェアラブルデバイスやドローン、ロボットなんかもあり、必ずしも「Data, Information」のみにフォーカスが移っているとも言い切れないと感じます。

先日、このブログでも紹介したJICAがやっている「オープンイノベーションと開発」という研究成果をまとめた報告書ドラフトを読んだところ、会津先生の書かれた章に「シリコンバレーでは、「ソフトやネットにはもう飽きた・つまんない」、「リアルが面白い」とよく言われる」という一文がある。要するに、ネットやソフトのビジネスで成功した起業家達が、次はモノ作りに走っているそうだである(この報告書の会津先生の章はとても面白いのは別の投稿で改めて扱いたいと思います)。Fablabや3Dプリンタの普及ということを考えると、Digital Development時代に必ずしもDeviceが軽視されているわけではないだろう(むしろフォーカスされていると感じる)。

Research Issueの変化

上記の表のDevelopment Informatics Researchの中のResearch Issuesを見ると、これまでのICT4D時代には「Readiness and Adoption」や「Technology and Context」となっていますが、それがDigital Development時代には「Political economy and digital harm」や「Agency, institutions, and structural relations」となっています。

この点は非常に納得&重要な課題になると思います。これまでは、ICTを途上国開発プロジェクトで使うために、「ユーザのスキルは十分か?インフラは整っているか?とか、政治的、文化的にICTを活用することがちゃんと受け入れられ普及するか?」をプロジェクトが実施される個々の国や地域のコンテクストに合わせて考慮するというのがICT4Dの大きな課題の1つでした。それが、これからは、もう一つ上段に構えて政治経済とか法規制とか、そっちの観点でも考えないとならないという変化。

例えば、これまた最近流行のFinTech分野のサービスが途上国にも波及していく場合、途上国側の法規制はどうなるのか?また、最近自分やガーナに住みつつも、Amazon.ukで買い物したりしています。思いのほか早く品物がちゃんと届きます!ふと、Amazon.ukとかってガーナ政府に税金払っているのかな?と思ったりします(←このあたり詳しい方、教えてもらえるととてもありがたいですっ!)。途上国でも通信環境や決済手段が発展すればするほど、ネットで外国から商品を買う人って増えると思うけど、そうなったときに途上国側では、どう税金をとることが出来るのだろう。

という単純な疑問とともに、IoT技術によって色々なデータ(例えば上記のような公共インフラ運用に係るデータなど)が他国に送られる場合に、政府はザルで良いのか?とか、情報セキュリティとか、色々な点で途上国側も先進国側もこれら整備しないとならない法規制があると思われる。

結局上から目線のTechnology-drivenなのか?

このオリジナルのHeeks教授のブログポストにサセックス大学IDSの先生がコメントをしている。「そもそもICT4Dって言葉は、好きじゃないんだよね。だって、なんだか上から目線でTop-downじゃん。ICT with Development とかby Developmentみたないほうが自分は好き。そういう意味では、Digital Developmentって言葉は悪くないね。」的なコメントである。

「用語はなんでもイイっしょ」というのが個人的な意見だが、このコメントをきっかけにちょっと考えてみた。ICT4DからDigital Developmentという流れがそもそもTop-downなんだろうと感じる。良く言われることだが、ラジオやテレビが出現したときには、そのテクノロジーを途上国開発に活用することが期待され、これで途上国開発のスピードが促進される!と誰もが思ったはず。そして、パソコンとインターネットが普及したときも同様。モバイルもブロードバンドも同様。そして今はIoT、AI、ビッグデータ、3Dプリンタ、etc.。結局、新しいテクノロジーが出現したら、それをどう途上国開発に活用しようか?という点は普遍的である。その意味で、新しいテクノロジーが開発される先進国側からの目線になるのは仕方ないのだろう。

ただ、振り返ってみると、途上国開発におけるラジオやテレビの利活用はもう100%有効に出来ているのか?ICT4D時代の課題(端的に言えば、どうすれはICT4Dプロジェクトを100発100中で成功させられるのか?)は解決出来ているのか?という問いがある。間違いなくこの問いの回答は「いいえ、まだです・・・」となるのだが、次々と出現する新しいテクノロジーの波は無視出来ず、また、新しいモノのほうが注目が集まる(=お金も集まる)ということで、どんどん途上国開発に活用すべきテクノロジーも最新化されていくわけです。この構図は、Technology-drivenということで、「課題・問題があってそれを解決するためにテクノロジーを利用する」ではなく、「テクノロジーを使いたいから課題・問題を発見する」というものではないか。

最後に

以上のように色々と考えてみました。新しいテクノロジーの波は無視出来ず、それを途上国開発にどう活用するか?は自分が最近常に関心をもっているテーマですが、Technology-drivenにならないように気をつけなくては、という自戒にもなりました。迫り来るテクノロジーの波に対して、単なる消費者とならず、自国の発展にどうテクノロジーを取り込んで活用していくのか?途上国側に課せられた課題は結構ヘビーですね。関係ないけど、一昨日まで居たシエラレオネの写真を載っけます(折角撮ったので)。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

シエラレオネの町中には携帯電話会社の看板ばかり

インパクト評価とIoTの可能性

今週、国連で開催されていた世界情報化サミット(WSIS)では、2005年の前会議からの10年の間にICTがもたらした貢献について、国連事務総長から言及があった。次のWSISによるレビューは10年後の2025年ということだが、ITUはその頃までには全てのものにインターネットを、と言っている。今年のITのトレンドキーワードになったIoT(Internet of Things)であるが、全てのものがインターネットにつながる世界など先進国だけかと思いきや、実は途上国にこそ可能性があるらしい(インドと中国が含まれるなら当たり前かもしれないけど)。

ITUが2015年に発行したMeasuring the Information Society Report, では、IoTの経済的価値は様々な条件が整えられることが要するものの、その活躍が期待されるのは主に新興国であるという。また、Mckinseyの予想では2020年までに世界のIoT市場の40%の市場価値は新興国から産み出されることが想定されており、その大半のインフラは国連のSustainability goalsの実現にむけたプロジェクトの一部として構築されるだろう、という。

新興国でIoTが実現される世界においては、国際開発プロジェクトにもいろいろな影響はあるだろうが、まずはインパクト評価の視点で考えてみた。

近年の公共政策(国際開発含む)ならびに民間投資の分野では、ヒトモノカネの資源を投入した事業に対し、社会的インパクトの評価・分析を行い、その成果を測定し、投入によって得られたリターンが本当に見出されているのかという証拠の提出と説明責任が求められている。いわゆる社会的責任投資(SROI: Social Return on Investment)の潮流だ。一つ前のtomonaritの投稿で記載あったナイジェリアの事例もにもける成果の見える化もその流れの一つだろう。

今後、ITUが目指すIoTの世界が実現すれば、そうしたインターネットインフラを活用してこうしたインパクト評価の流れはよりデータの収集・評価・分析の精度があがり、一層活用が進むんではないかと思う。

既にマニュアルで集めたデータを分析しグラフィカルにそのアウトプットやアウトカムを見える化することは世界のどこでも行われている。でもこれからはデータを集めるところから自動化できるようになれば、アウトプットやアウトカムだけではなく、より説得力のあるインパクトの測定につながることができるのではないか。

例えば、「中国のある工業地帯における集塵装置の設置による大気汚染の削減」、というようなプロジェクトがあった場合、本事業のロジックモデルはごくシンプルにすれば以下と考えることができる。

   インプット   事業への資源投資(ヒトモノカネ)
   アクティビティ 事業の実施
   アウトプット  集塵装置の設置
   アウトカム   大気汚染の削減
   インパクト   周辺住民(受益者)の健康被害の改善

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これまでもアウトカムの測定については一定程度のデータ収集は行われているが、この場合このインパクトを図るのに、もしも対象地域の住民の健康データがリアルタイムで収集できれば、本事業の投資効果や改善に向けた継続的なアクションが取りやすいのではないか。

現在の世界のインパクト評価の測定にはインタビュー等を通じた定性的データの取得と専門家の判断が一般的だとは思う。それでも今後の技術の進展でセンサーや無線の技術が安価に提供できるようになれば、インターネットに常時接続された環境から取得される受益者の 定量、定性のビッグデータが、インパクトの分析に使われるようになっていくのでは。国連や世銀がICT企業と一緒になってそんなシステムつくったら面白いのにと思う。