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貧困層への支援は現金支給がいい?

こんにちは、Kanotです。今回は途上国の貧困層の支援は援助機関・NGO経由ではなく現金(ベーシック・インカム)支給が効果的である!という議論を呼びそうな活動を行っているNGOを紹介したい。

実施しているのはGiveDirectryという組織で、具体的な仕組みとしては、まず途上国の極度に貧困なエリアを探す(現在はケニアの農村部のみ)。次に支援対象の住民を選び、賄賂等にお金が使われなそうか一定期間モニタリングする。支援対象に決まったら1,000米ドル(ほぼ1年分の収入!)をM-PESAで携帯送金する。そしてその後、そのお金が有効に使われているかをモニタリングする、というものである。借金ではないので返済義務は生じない。

これまでの途上国での貧困層へのアプローチというのは、たいてい政府や援助機関やNGO経由で行われてきた。基本的には現金は避け、蚊帳や保健・教育サービスなどの支援が多かったと思う。一方で、寄付金などで集められた資金が貧困層にきちんと届いているかというと、当然ながら援助機関やNGO職員の人件費や広報にある程度使う必要があるため、貧困層へのサービスに使われる前に目減りしてしまう。

「目減りするくらいだったら、途上国の貧困層に直接現金を送ったほうが効果的なのではないか?」と考え、政府・援助機関・NGOをすっ飛ばして、ケニアの住民に直接現金を送る活動をしているNGOがGiveDirectryである。Chairmanは若手の経済学者でアドバイザーに教授職の人たちが名前を載せるなど、ややアカデミック色の強い印象がある一方で、Googleなどからも資金援助を受けている。

現金(ベーシック・インカム)支給については、日本でも生活保護という現金支給について賛否両論あり、フィンランドやスイスでもベーシック・インカム導入に関して様々な議論が行なわれている。これらに関する主な批判的なコメントとしては、現金をもらえてしまうと勤労意欲が減少し、経済的にはマイナスである、というものである。

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GiveDirectlyでは、現在の資金援助の仕組み・非効率さに疑問を投げかけており、上図のように、これまでの援助機関やNGOが間に入って目減りするくらいであれば、携帯電話を使った送金で直接送ってしまったほうが実は経済開発に与える効果は大きいのではないか?というものである。(上図のgifアニメがうまく見れない方はこちら

実際に1年分の現金を無償で受け取った住民はどのような行動をとるのであろうか?酒やタバコに使ってしまうのだろうか?店を開いたりするのだろうか?何かに投資したりするのだろうか?

この効果の検証にはRCT(Randomized Control Trial:ランダム化比較実験)という手法が用いられている。RCTは開発経済学では現在よく使われている手法であり、統計や計量経済学を学んだことがある人は聞いたことがあるかもしれない。簡単に説明すると、効果測定のバイアスを小さくするために、一定規模のエリアでランダムに(これがミソ)被験者を選び、その中で2つのグループ(現金支給グループと支給しないグループ)に分けて効果を比較するというものである。Googleなどが新サービスの検証に使っているA/BテストもRCTの一種である。

さて、GiveDirectlyに話を戻すと、HPに効果も説明されていて、34%が収入増、52%が資産増、42%が子供に食べさせられない日が減少、そしてタバコやアルコール消費が増加した世帯は0%、という結果が出ているという。従来の性悪説(もらったら使ってしまうに決まってる)に基づく援助概念から見るとにわかに信じがたいデータだが、正しく使いそうな人だけにあげている(選定のバイアス)や、開始数年ということで長期的データがないことなどから、本当に効果があるかの検証にはもうしばらく時間(モニタリング)が必要と考える。

ただ、私は彼らのHPと彼らの論文を見た時に、ちょっとした憤りを感じた。彼らの「直接支援のほうが効果が高いのでは?」という思想に反対するつもりはないが、やり方が実験的すぎる。つまり研究として興味深いのは事実だが、社会実験の度を越えているのでは?、という懸念である。まず、1年分の収入を携帯送金で送ってしまうというのは、その人の生活を壊してしまう可能性がある。例えば、タバコ・酒・ギャンブルなどに浪費して生活が変わってしまう可能性、一時収入に喜んで仕事を辞めてしまう可能性、などは十分にリスクとして想定できる。そして支援を得た情報を周辺住民が得た時に、(日本でも宝くじのケースで聞くが)周りとの人間関係がおかしくなってしまう可能性だって十分にありうる。特に人間関係に悪影響が出た場合のインパクトは、途上国のコミュニティでは致命的である。彼らの論文を読むと、現金を一度に送る場合と複数回に分けて送る場合も「比較実験」していて、意義は分かるものの「なんだかなぁ・・」という疑念は拭えない。

現時点では負の影響は出ていないと言っているので、すべてただの杞憂なのかもしれないが・・。そしてこれまでの援助の常識が非常識で、彼らの仮説が正しいのかもしれないが・・。いずれにせよ、非常に興味深い活動ではあるので、今後も注意深く見ていきたいと思う。

追記(2016/4/24)
いただいたコメントの中で、「アメリカで社会保障を唱える人の論理で多いのは、貧困そのものを問題視するよりも、能力があるのに貧困にとどまってしまっている人が存在することへの問題意識のほうが大きい気がします。この取組の背景にはもしかしたらそうした考えがあるのかなと思いました。」というのがありました。このコメントを受けて気づいたのが、私がリスク回避(負の例を出さないこと)を最重視してこの投稿を書いていたということです。まさにこの辺りは日本とアメリカの違いな気がしています。落ちこぼれをなくす教育を重視する日本、優秀な人間を伸ばす教育を重視するアメリカ、こういった差が考え方の違いに出ているのかもしれません。