タグ別アーカイブ: インド

インパクト・ソーシングの形態

ここ最近、このブログでも取り上げたインパクト・ソーシング(以下、IS)についての2つのレポートを読んでみました。1つは先日の「新興市場戦略としての”インパクト・ソーシング”」でも紹介されていたMonitor社(ロックフェラー財団支援)の”Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing”、そしてもう一つはマンチェスター大学のWorking Paper “Towards a Taxonomy and Critique of Impact Sourcing“。

今まで知っているようで知らなかったことがちょっと整理出来た感がある。以下、それぞれのレポートについて紹介。
Towards a Taxonomy and Critique of Impact Sourcing

Taxonomy (分類という意味)という言葉とおり、ISを分類することを試みている内容。以下、5つの観点からSamaSourceやRuralshore、TATA Rural BPO Center, Wipro Rural CenterといったISSP(インパクト・ソーシング・サービス・プロバイダ)を分類している。

  • 観点1. Prevailing Concept: そもそもの事業のコンセプトが何か?(社会開発が目的なのか、お金儲けが目的なのか?的な問い)
  • 観点2. Primary Business Objective: Market-drivenかCommunity-drivenか?
  • 観点3. Captal Investment: 資本に政府やドナーからのドネーションが入っているか?
  • 観点4. Economic Sustainability: 運営資金として政府やドナーからのドネーションに依存しているか、それとも事業収入で自立しているか?
  • 観点5. Return on Investment: リターンは社会開発的な効果か、それとも商業的な効果か?

この5つの観点からISを分類すると、以下の4つのカテゴリに分けられるという結果になっている。カッコ内の言葉は自分が勝手にイメージでつけてみました。

  • Non-profit Social Outsourcing Organization(寄付金に頼っても社会開発が主目的)
  • For-profit Social Outsourcing Organization(まずは利益を出すことが前提)
  • Socially Responsible Social Outsourcing Organization(大企業を中心にCSR的な意味も含めて)
  • Dual Value Social Outsourcing Organization(ビジネスで社会開発!)

下記の表がその結果をしめしたもの。なるほどなんとなく、こういうカテゴリがあるのかってなことがわかる。思わず「だから何?」というふうに思う方もいるかもしれませんが、ISのメリットやデメリットが何か?、課題が何か?、批判は何か?といったことを考えるにあたって、こういう分類は重要。一言で「インパクト・ソーシングの課題は○○だ」といったときに、上記のような様々な種類のISのうち、全てに当てはまるのか、それとも、どれかについて言っているのか?は明確にしておく必要がある。

Taxonomy of Impact Sourcing Organization

Source: Malik, F., Nicholson, B., & Morgan, S. (2013). Towards a Taxonomy and Critique of Impact Sourcing.

このレポートではISについての批判についても触れられているが、その批判は次に紹介するMonitor社のレポートとかぶるので、次にMonitor社のレポートを紹介したい。

Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing
最初のレポートがISの組織形態(資本にドネーションが入っているか等)とか社会開発インパクトにフォーカスを当てているのに大して、このレポートでは、もっとビジネスよりの視点からISを分類している点で違いがあって面白い。具体的には、ビジネスモデルの観点から以下、5つのカテゴリに分けている。(Source: Markets, M. I. (2011). Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing. Working paper, Monitor Group, Mumbai.)

  • Micro Model
クライアントが発注した業務を単純作業レベルに細切れにして主に個人へ発注するパターン。携帯電話だけでも作業できるようなレベルの仕事もあり、支払いはモバイルマネーやairtime(通話料クレジット)で支払うパターンも(実際にtxteagleというアメリカ企業が実施している)。簡単に誰でも参加できるが、ガッツリ儲けるのは困難か。また、管理会社としてはクオリティ・コントロールが難しい場合も。

クライアントが発注した業務を単純作業レベルに細切れにして主に個人へ発注するパターン。携帯電話だけでも作業できるようなレベルの仕事もあり、支払いはモバイルマネーやairtime(通話料クレジット)で支払うパターンも(実際にtxteagleというアメリカ企業が実施している)。簡単に誰でも参加できるが、ガッツリ儲けるのは困難か。また、管理会社としてはクオリティ・コントロールが難しい場合も。

  • Intermediary Model
クライアントと複数のISSPの間に中間業者(Intermediary)が入るパターン。中間業者はクライアント確保に注力して、作業のクオリティ・コントロールはISSPに投げることが可能。多くのクライアントを持ち、多くのISSPを抱えていくことが中間業者の儲ける道。また、最後の仕上げは中間業者が行うことである程度の質の担保も可能か。この形態の事例はSamasource。

クライアントと複数のISSPの間に中間業者(Intermediary)が入るパターン。中間業者はクライアント確保に注力して、作業のクオリティ・コントロールはISSPに投げることが可能。多くのクライアントを持ち、多くのISSPを抱えていくことが中間業者の儲ける道。また、最後の仕上げは中間業者が行うことである程度の質の担保も可能か。この形態の事例はSamasource。

  • Sub-contractor Model
大きなクライアントの下請けとしてBPOを請負う会社があるパターン。インドのParadigm Infotechという大企業の下請け(子会社)としてケニアにあるParadigm Expressが良い例。クライアント(親会社)から安定して仕事がもらえる&大企業のネームバリューがあるので、途上国が始めるBPO産業として有益な形態とも言える。

大きなクライアントの下請けとしてBPOを請負う会社があるパターン。インドのParadigm Infotechという大企業の下請け(子会社)としてケニアにあるParadigm Expressが良い例。クライアント(親会社)から安定して仕事がもらえる&大企業のネームバリューがあるので、途上国が始めるBPO産業として有益な形態とも言える。

  • Partner Model
Intermediary Modelと似ているが、中間業者(Parent ISSP)が取りまとめる相手が小さいISSPではなく、Center Partner(労働集約型のBPOセンター)である点が違う。BPO Center Partnerは従業員へのトレーニングやクオリティ・コントロールを行い、トップマネジメンはParent ISSPが行う。インドのRuralShoresがこの一例。

Intermediary Modelと似ているが、中間業者(Parent ISSP)が取りまとめる相手が小さいISSPではなく、Center Partner(労働集約型のBPOセンター)である点が違う。BPO Center Partnerは従業員へのトレーニングやクオリティ・コントロールを行い、トップマネジメンはParent ISSPが行う。インドのRuralShoresがこの一例。

  • Direct Model
下請けやパートナーという立場のBPOセンターではなくParent ISSPが自社でBPOセンターを設立していくパターン。自社でやる分、クオリティ・コントロールは効くし、需要に見合った規模のセンターを作れる反面、ビジネス拡大には投資と時間を要する。Subcontractor Modelの形態で親会社でない会社から受注した場合はこの形態と見なせる。インドのeGramITなどが例。

下請けやパートナーという立場のBPOセンターではなくParent ISSPが自社でBPOセンターを設立していくパターン。自社でやる分、クオリティ・コントロールは効くし、需要に見合った規模のセンターを作れる反面、ビジネス拡大には投資と時間を要する。Subcontractor Modelの形態で親会社でない会社から受注した場合はこの形態と見なせる。インドのeGramITなどが例。

以上、5つの形態に分けてあるのを見ると、先に紹介した分類とはまた違った面白さがある。ICT4D的な観点からは、いわゆるBOP層にも収入を得る機会を与えたり、携帯電話が使えれば参加できて、支払いもモバイルマネーといったMicro Modelに興味がわくが、一方で経済的インパクトや国としてのICT産業振興を考慮すると、Sub-contractor Modelの方が魅力的に見えたりもする。

最後にISの課題について。Monitor社のレポートの最後に、3つのカテゴリにわけて合計9つの課題が挙げられているたので紹介。

Source: Markets, M. I. (2011). Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing. Working paper, Monitor Group, Mumbai.

Source: Markets, M. I. (2011). Job Creation Through Building the Field of Impact Sourcing. Working paper, Monitor Group, Mumbai.

どれもそのとおりと納得できる課題ばかりだが、特に気になった点に黄色マーカーしてみた。
まず「本当にBPO層を採用、雇用、トレーニングできるのか?」という点。インドのように大卒でそれなりに学があるけど、田舎に住んでいるから職にありつけないというようなポテンシャルの高い人材がいる国なら、少々のトレーニングで使えるようになるかもしれないが、一方、インドとはちがって、中学校に行けなかった若者たちに対して、どれだけのトレーニングをすれば使えるようになるのか?を考えると、Micro Modelでの小遣い稼ぎレベルなら良いけど、本格的なアウトソーシング業務を実現できるISは簡単ではないと思われる。

「Race to the Bottom」というのは、どんどん低賃金で働く層に向かっていくことを示唆している。レポートでは、「does not create new class of “digital sweatshops.”」ということが言われていた。Sweatshopとは低賃金で長時間労働をさせる工場のこと。つまり、服飾産業(イギリスのプライマーク等が途上国で児童労働をさせているのが批判されていたことがあるが)の前例のように、仕事を単純化して安い賃金で働く労働力(児童労働など)を確保する方向へ、途上国のBPO産業が向かわないようにしなくてはいけないということ。
こういったリスクを回避するためにも、単なる価格競争とならないように、途上国のBPO産業はブランディングが必要だと改めて感じる(以前、このブログでも投稿してみた内容同様)。

これら2つのレポートはとても勉強になった。ISが進んでいるのはインドをはじめ、南アフリカ、ケニアという。今後、780,000人の雇用を生み出すと言われるISの波が、どうなっていくのか?ガーナにもその波は来そうなので、ウオッチングしていきたいと思います。

新興市場戦略としての”インパクト・ソーシング”

先週に「インパクト・ソーシング(以下、IS)」関連調査等を含めインドに出張しました。先の投稿でも言及あったRualshore社を含め大〜小規模のIS事業者にお会いしました所、折角なので(相当久々なのですが)投稿させて下さい。

4年前、このブログで投稿した際「ソーシャル・アウトソーシング」と呼んでいたけれど、最近は「ソーシャル」でなく「インパクト」というらしい。そこで改めて、「インパクト・ソーシング」とは、、??

この2ー3年でこの単語を積極的に使っているのは、米最大級の慈善団体ロックフェラー。その定義では「十分な機会に恵まれない農村部の若者や社会的弱者へ、職業訓練とBPOセンタでの持続的な雇用を提供すること」とある。

出所:ロックフェラー財団HP

米BPO大手コンサル、Avasant社の予測では、2020年時点でISは世界BPO産業の約17%、554億ドルの規模になる可能性があるという。

話はインドに戻ると、BPO発祥地でもある同国では2014年4月1日に施行された新会社法で一定規模(例:売上100億ルピー以上(170億円程度))以上の企業に税引前利益の2%をCSR活動へ支出することを義務化した。その対象は「食糧、貧困、教育、ジェンダー、乳幼児死亡率、母子保健、感染症・マラリア等、環境、雇用と職業訓練、ソーシャルビジネス、首相特別ファンド、差別カースト」への支出と記される。

「IS業界への追い風かも?」と思い、現地でIS事業者に聞いたが、各社の統一見解は、「単純なIS事業者へのBPOは、単なるコスト削減策で、『顧客自身のCSR』とは言えないだろう。」とのことだが、IS事業者のインフラへの寄付や職業訓練への協力等も含めた活動であれば、CSRとしても認められる、とのこと。同国ソフトウェア業界団体(NASSCOM)傘下の財団では、こうしたCSRの潮流が、IS拡大の起爆剤となる可能性を管轄省庁と議論中である。

ISを活用する顧客事例も多く聞けた。産業に応じた差異はあるが、大きく以下の3つの中長期的な顧客の目的が見えてきた。

第1に、現地での企業ブランド確立。訓練と雇用の提供する農村部BPOセンタにIS事業者と共同投資し、その周辺に自社プラントを建設する顧客もいた(途上国によくあるプラント設立反対運動等はなかったとの事。)。

第2に、ローカル人材資源獲得。特に金融、保険、消費財業界等の営業・マーケ部門においては海外や都市部から人材を送り込むよりもBPOセンタの資源を活用した、マーケットアクセスが可能だ。

第3に、新興市場で戦える自社人材の育成。BPOセンタの立ち上げ時期にはISを活用する顧客の本社も管理、教育を行うことが多く、顧客企業における一種の人材教育になっている、という。

世界のBPO市場の中心的労働力はこの数年はインドからの供給が多いこと、そして、同国の新会社法によるCSRの潮流によって、同国のIS事業の拡大とその活用は今後さらに増えていくと思われる。

 

IT Sourcing for Development: International Workshop@マンチェスター大学

ICT4D修士コースを提供しているマンチェスター大学が、「IT Sourcing for Development: International Workshop」という会議を10月に開くということで、現在、論文募集中です(7月11日締切)。ご興味ある方は応募してみてはどうでしょうか。

テーマは、会議のタイトルどおりに、「IT Sourcing」というもの。世の中には、Samasourceをはじめ、色々なソーシャル・アウトソーシングがあって、途上国開発をビジネス面から促進させる取組であり、単純にこういうビジネスは素晴らしいなぁと思う。

このテーマでどんな研究発表が行われるのか?ソーシャル・アウトソーシングの成功の秘訣とかかなぁ。と思って、この論文募集のWebに掲載されていた参考文献の1つMalik, F., Nicholson, B. & Morgan, S. (2013)Assessing the Social Development Potential of Impact Sourcingを読んでみた。その内容を簡単に紹介すると、以下のようなもの。

  • インパクト・ソーシング(←自分はソーシャル・アウトソーシングと同じ意味と理解しています)に関する研究は、そのビジネスの持続性にフォーカスしたものが多く、その開発効果にフォーカスしたものは少ない
  • なので、この論文はインパクト・ソーシングの開発効果の方にフォーカスしてみた
  • アウトソーシングする会社に雇われた人達(あまり裕福でない層)が働くことを通じてどのような変化(開発の観点からの変化)を体験しているかを調査するのが目的
  • 具体的なフレームワークとしては、Capability Frameworkに沿って以下3つのカテゴリ(Capabilities、Conversion Factors、Resources、)に変化を整理するという試み(以下、論文からの抜粋です)
  1. Capabilities include a set of potential and achieved functionings which the Impact Sourcing initiative may have enabled in marginalized outsourcing employees.
  2. Conversion Factors include all elements which may enable or restrict an individual from being employed, for example, lack of skills, lack of resources, cultural constraints, family support, etc.
  3. Resources include all tangible or intangible resources which act as capability inputs and opportunities provided by the outsourcing service provider to extend capabilities or to minimize the effect of restrictive conversion factors. For example, provision of training, a conducive work environment, provision of internet and computers etc.
  • ケーススタディとして、インドで女性を主な対象にインパクト・ソーシング事業を展開しているHarva outsourcing centreで働く女性10名に対してインタビューを実施した
  • 調査結果としては、(ちょいと自分の解釈を加えていますが、)無料でICTトレーニングを受けられたり、オフィスでスマートフォンを使わせてもらえたり、空き時間にインターネットを私用で使わせてもらえたりといったResourcesの提供があり、家計を助けるために働くという意欲や、学習する意欲、家族の理解などのConversion Factorsが高まって、スキルを身に着けて働いて稼ぐ、将来のために貯金する、といったことが出来るようなると共に自信が持てるようになるといったCapabilityの向上もある
  • ただし、この調査ではポジティブな側面しか見ていないので、ネガティブな側面についても今後突っ込んだ研究が必要

と、上記のような内容でした。

学術的な観点ではセンのフレームワークを使って開発効果を整理している点などが良いのかもしれませんが、いいことばかりの内容にちょっと物足りなさを感じました。また、この観点からすれば、別にインパクト・ソーシングでなくても、雇用創出の事業ならば同じような結果になるのではないかとも思い、ICTを使ったインパクト・ソーシングならではのポイントがあるともっと面白くなるんじゃないかと…。この分野の文献などあまり読んだことがないので、ちょっと勉強してみたくなりました。

インドの通信会社による女性支援

昨今よく記事で見かけるのが、インドの女性差別、特にレイプの事件である。これまでこういった事件はあまり問題にならなかったが、最近ようやく取り組むべき課題として政府を中心に動きが出てきたところである。

そういった背景の中で、通信会社が女性サポートを始めているというので紹介する(あまりICT4Dではないが、、)。

まずはVodafone。インド国内に15の「エンジェルストア」という店員が全て女性という店舗を立ち上げた。女性の就業サポートという点と、男性店員からの嫌がらせを防げるということで、評判は上々とのこと。

同業のMTSでは物理的に女性を守ることを目的にプリペイドカード購入者に無料で催涙スプレーを配布している。

またBharti Airtelは携帯電話のアラート機能に加えて、SMSベースでの最寄り警察、病院への通報サービスを導入したとのこと。

ライバル各社が競争しながら女性を守る方法を考えるのは大いに結構なことであるが、政府レベルで根本的にそのような機会を削減する努力をして欲しいものである。

今回はインドの話を書いたが、バングラデシュなどのイスラム国ではレイプなどは少ないものの、宗教上の理由で仕事がしずらい、外に出れないなどの問題があり、そこにITでアプローチをかける事例もあり、次回紹介したいと思う。

インド Ruralshores社のBPO事業

国際開発ジャーナル3月号に面白い記事が載っていたの紹介したい。「BOPビジネスと農村の雇用創出」(中村 唯 著)というタイトルで、インドのRuralshores社という企業の取り組みが紹介されていた。インドのバンガロールにあるこの企業のビジネスはITのBPO事業。欧米から受注したデータ入力等の業務を行っている。面白いのは、実際の業務を行うために、都市部から離れた農村部にBPOセンターを設立し、そこの地域住民を雇用しているいう点。欧米→インドへのオフショアに加えて、インド都市部→インド農村部へのオフショア(これが社名の意味するところなんだろうな)をやっているという点だ。Ruralshores社の紹介はYoutubeにもあった(下記映像)。

13のBPOセンターを展開しており、合計約1600人を雇用している。スタッフは英語力と基本的なPC操作がわかる層を雇って、数カ月間のトレーニングを行うことで業務に支障がないスキルを身に着けさせており、データ入力の正確性は99.9%とのこと。2025年までに事業を拡大し10万人の雇用を目指すという、農村部の雇用創出に貢献しているこの取り組みは米国エジソン賞を受賞するなど、評価されている。

この記事を読んでいて特に興味深かったのは、この取り組みが最初から農村部の雇用創出やソーシャル・ビジネスを狙ったものではなかった点だ(実際にどうだったかはわからないけど、記事を読んで個人的にはそのように思った)。創始者のムラリ氏は、当初普通に都市部でBPOビジネスを実施したが、ITバブルのインドでは手頃な大卒人材を雇うには高給料、また、雇用してもより良い職を求めて転職されてまうというリスクといった課題に直面し、その解決方法として現在の農村部でのBPOセンターというビジネスモデルに至っている。必要に迫られて、このような取り組みになっている点が、援助やNGOの取り組みとは異なる力強さを感じる。

これまでも途上国で同様の試みはあったので、このモデル自体がイノベーションかというと真新しいってわけじゃないけれど、何が凄いって「成功している」ことなんだと思う。雇用時の選考基準やトレーニングのメニューやセンターのインフラ整備やその後の従業員のケアまで含め、きっと色々な困難を乗り越えて成功することが出来たのだと思う。そこまでやり遂げたってことが、Ruralshores社が評価されるところなのだろう。

話はちょっと変わるけど、このBPOセンターのように、農村部や地方でのITプロジェクトというと、まず最初に電力インフラがネックになるのでは?と感じるが、ICTWorksに「Electrical Power is No Longer a Problem in ICT for Development」というタイトルで電力インフラ問題は以前ほど決定的なハードルでなくなりつつあるという投稿があった。PCはCRTモニターからLCDモニタになったり、タブレット端末が登場したり、といったことから、IT端末はソーラーパネルや車のバッテリーでもある程度稼働が可能なものになっている。つまり、電力インフラにかける投資は依然より減少し、電力インフラは投資対象ではなく、運営費になるだろうということを指摘している。確かに、依然と比べてノートPCのバッテリー駆動時間もずいぶん長くなったし、ICT4Dプロジェクトのハードルは技術革新によってどんどん低くなっていくのは間違いないだろう。

Digital Green

Digital GreenというNGOがICTを活用してインドの農村支援を行なっている。農業×ICTというと、携帯電話を活用して市場情報等の共有を行うといったプロジェクトがすぐ思いつくが、Digital Greenの支援は映像がメインである。有益な農法情報などを農民に普及するために、映像を使う。その映像も単に先進国や農業研究機関が作成した視聴覚教材的なものではなく、現地の農民を出演・主演させて作成するものである。この点が面白い。農村部の人々も、「お隣のAさんが出てる映像なら見てみたい」と思うだろうし、出演する方も、単なる受身でいるよりも紹介する知識の習得により熱心になるだろうと思う。

途上国の人々が単なる情報の受け手である状態から、自ら情報の作り手となってきたのが、ICT4D分野の昨今の流れ(ICT4D1.0からICT4D2.0への変化)ですが、Digital Greenの取組みは、まさにその通り。実はこの活動、2008年頃にインドのMicrosoft Researchを訪問したときは、Digital GreenはMicrosoftが実施しているパイロットプロジェクトの位置づけだった。それが、スピンオフしてNGOとして単独の活動となった。当時は、動画を撮って集会所みたいなところで住民に見せているこの活動よりも、携帯電話を使って情報配信をするプロジェクトの方が新鮮味があった。しかしながら、デジカメで誰でも動画が撮れて、Youtubeで動画が簡単に共有出来て、さらにスマートフォンで簡単に閲覧出来る今の時代、動画を使ったプロジェクトにむしろより可能性を感じる。Digital GreenのWebサイト見てそんなふうに思った。

一人に一台、タブレットPCを配りますか?

ICTWorksWayan.comに興味深いICT4E関連のトピックがあったの紹介。どちらもOLPCやインドのAakash(35ドルのタブレット端末)に代表される、いわゆる「ハードを生徒に配ること」=「教育の質の改善」にはならないという話。

まず、Wayan.comに、「The $35 Aakash Tablet Will Fail Education Just Like the $100 OLPC Laptop Did」(Aakashの35ドルタブレットは100ドルのOLPC同様に失敗する)というタイトルで、ハードを配っても、それをどう活用するかの教育手法のトレニーングを教師に対して行なったり、教育用ソフトやコンテンツを充実させないと、ハードだけでは意味がないということがストレートに書かれていた。なるほど、その通り、と納得出来る。基本的に自分もこの考えだ。でも、コメントの書き込みを読んでみると、反論もないわけでない。まぁ、ハードだけじゃダメってのは分かっているが、それでも、安くなってきたし、生徒が持つことでそれなりにメリットはあるだろう、とも思える。

しかし、そんな「ハードのバラマキにもそれなりの意味はあるだろう」という思いが、ICTWorksに掲載されているVictor Lyons氏の話を読んだら、ちょっと変わった。以下、VictorsLyons氏の投稿のご紹介。

クイズ:
『貧困ライン以下の生活をしいられている発展途上国の田舎の学校。生徒数は30名。必要な教育用コンテンツやソフトが既にインストール済み30台のタブレットPC(ノートPCや携帯電話に置き換えてでも良い)が学校にあるとしたら、この30台のタブレットPCを、生徒一人に一台ずつ配りますか?』

非常に分かりやすい問いかけだ。「モノあるなら、しかもコンテンツも入っているなら、配ったら良いじゃん」と思いました。が、この記事を読むと、それじゃいけないのか・・・と改めて思える。

Victor Lyons氏が実施しているインドの田舎で成人向け識字教育を行うTara Akshar Literacy Programというプロジェクトの話。まず、先生1人で生徒1人を教えることろから始めたが、これではコストがかかりすぎる。そこで、生徒2人でPC一台を共有し、その2人の生徒を先生が1人で面倒を見ることにした。次に、4人の生徒でPC1台を共有し、先生が1人。次に8人の生徒でPC一台を共有し、先生が1人。このようにどんどん効率を上げていったら、最終的に8人の生徒でPC1台を共有し、先生が1人で、3クラスの面倒を見れるようになった。つまり先生1人が24人の生徒を見れるようになったのだ。

この8:1の割合が上手く機能する理由として、対象となる生徒の生活環境があげられる。田舎の生活は常に誰かと一緒。家族だったり、ご近所さんだったり、友人だったり、常に誰かと行動を共にしたり話をしたり。そんな彼らにとって、8人という人数でワイワイガヤガヤしながら勉強するのが楽しくもあり、やる気にもつながった、という。(→①1人ぼっちで勉強が続かない)

PCの活用とは関係ないけれど、2人組で勉強したり、4人グループで勉強することで、勉強の効率・効果が上がると言われる。「確かにそうかも」、と納得出来る気がする人は少なくないだろう。自分も、大学院では良くグループワークをやってたし、それはそれで楽しかったし、何よりも人と一緒に勉強した方が、議論や考えたことが記憶に残る気がする。(→②1人でPCと勉強するのが本当に良いのか?)

また、Victor Lyons氏は、勉強の苦手な生徒たちに歴史を教える立場になったときに、歴史の話をせずに、勉強の仕方を教えた。マインドマップの活用法とか、多重知性をどう活かすかとか、記憶の方法などなど。そして、生徒を2人組にして互いに教え合うように支持した。すると、その生徒達の成績がぐんぐん伸びたという。(→③コンテンツじゃなくて、勉強法が重要)

以上のVictor Lyons氏の話を読んで、①〜③の理由から、「1人1台のタブレットPCを配っても、それじゃダメだなぁ・・・」と改めて納得。そもそもPCに向かって1人で黙々と勉強するってのが、難しいということに気づくだけでなく、1台のPCを共有して使うことで生まれるグループワークの良さがあるということにも気づいた。

そういえは、エチオピアの高校のIT教育でも、生徒は1台のPCを3人で共有していた。早く1人1台の環境になれば良いなぁと思っていたけど、そうとも限らないのかも。彼らはワイガヤしながら楽しそうにやっていなぁ、と思い出しだ。テストのときには、「こいつと同じグループじゃ嫌だ!」とか喧嘩している輩もいたが、1人でPCに向かって黙々と勉強することでは得られない貴重な勉強をしていたのかも。今後、途上国、先進国を問わず、学校でPCが1人1台に提供される教育環境となっていくとしても、やはり人と学ぶってのが、非常に重要だと改めて感じました。