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情に報いると書いて「情報」=information

今日、とても面白い話を聞いたのでわすれないように。

まずは、前段。

これまでの投稿で何度か、dataとかinformationは受け取る人の教育レベルや経験によって、その人にとって有益にもなるし無意味にもなる、というようなことを書いてきた。だからICTを使って情報を配信しただけでは、必ずしも全員が恩恵を受けられるわけじゃない。このコンセプトは、Heeks教授の”4A model”というモデルが分り易い。

A4 Model

Source: Heeks, R. (2002) “iDevelopment not eDevelopment:Special Issue on ICTs and Development”, Journal of International Development, 14(1), 2002, 112, which has been published in final form at: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jid.861/abstract

Dataは単なる数字や単語の塊であり、それだけでは意味をなさない。そのDataにアクセス出来て(←例えば、スマホでインターネットを使ってアクセスするには、スマホというデバイスやインターネットを使えるだけのお金やスキルが必要)、Assessすることが出来て(←その数字や単語の塊が何を意味するのか?を分析・理解するためには教育や経験が必要)、Apply(Adapt)することが出来て(←自分の仕事や生活に当てはめて、そのDataを有益に活用するアイデアに気づくためにも教育や経験が必要だし、さらに、それを「有効活用しよう!」と考える意識・思いが必要)、そこまで出来て初めて単なる数字や単語の塊であるDataが有益な意味を持つInformationになる。そして、その有益な情報に基づいて、自分にメリットのあるActを取ることが出来る(←そのためは、時としてお金や時間や体力などが必要)。ということを上記の4A modelは示している。

要するに、受け取り手側の教育レベルや経験、能力によりけりということ。これは、「結局、アナログ・コンポーネントが重要」という世銀のWorld Development Report 2016の内容とも同じ趣旨だ。

んで、今日聞いた面白いこととは、日本語でInformationは「情に報いる」書いて情報ということ。Informationにこの日本語訳を当てはめた人は、上記で述べた「有効活用しよう!」と考える意識・思いが必要」という点を理解していたのだろうと驚き。

Informという単語は、「知らされたもの→知識、考え→情報」というような語源を持つらしいのですが、informという情報発信側主体の単語の名詞形に、情報の受けて側の視点から日本語に訳した方はスゲーなーと感心してしまいました。

ポスト2015年におけるICT4D

MDG(ミレニアム開発目標)の目標年2015年はもう間近。ポストMDGとしてどんな開発目標が国際社会で掲げられるのか?というのは、言わずもがな開発業界ではホットな話題。

一方、ICT4D関連の大きな会議といえば、WISIS(世界情報サミット)が思いつく。でも最近ICT4Dに興味を持った方々のなかには、馴染みが薄いかもしれない。第一回WSIS2003@ジュネーブ、第二回WSIS2005@チュニスは、2000年頃からICTの途上国開発における役割に期待が高まってきて、同時にデジタル・デバイドという用語が頻発されるようになり、良くも悪くもICT4Dバブル的な風潮を象徴する国際会議だったと言える。そのWSISの第三回目が2015年にロシアのソチで行われる予定そうな。

ポストMDGにおけるICT4DおよびWSISの位置づけがどうなるか?というテーマで書かれたマンチェスター大学のワーキングペーパー「ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 World」を読んでみた。これは、以前このブログでもポストMDGsのICT4D研究優先課題としてKnotが紹介していたワーキングペーパーの続編的なペーパーなので、重なる部分もあるもの自分なりに理解した内容(以下4点)を紹介したい。

1.POTENTIALLY WELL-COVERED ICT4D AREAS

このペーパーはICT4D関連文献とポスト2015年(ポストMDG)関連文献を対象に、どういう言葉が使われているか?を分析し、そのギャップを明確にすることで、ICT4Dアジェンダと開発アジェンダのギャップを発見するというもの。下のグラフで0より下に伸びている線は、ICT4Dアジェンダとしてはあまり議論されていないがポスト2015年開発アジェンダとしてはよく議論されているというテーマ(数字の大きさがそのギャップの差)。逆に、0より上に伸びている線は、ポスト2015年開発アジェンダとしてはあまり議論されていないがICT4Dアジェンダとしてはよく議論されているというテーマ。例えば、Infrastructureというテーマは、ICT4D分野では良く議論されるけど、ポスト2015年開発アジェンダとしてはそれほど議論はされていないということ。逆に、Environment and Sustainabilityというテーマはポスト2015年開発アジェンダとしては良く議論されているけど、ICT4D分野ではそれほど議論はされていないということ。言い換えると、このグラフで真ん中あたりのものは、ICT4Dとポスト2015年開発アジェンダの両方で同じ位議論されていてギャップはないのも。Knotの投稿にもあるように、テーマごとのギャップ大小がわかる。この詳細はKnotの投稿を参照して下さい。

ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 Worldより

ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 Worldより

2. INFORMATICS-CENTRED ICT4D PRIORITIES

ICT4Dという用語が示すとおり、Information and Communication “Technology”がどう開発に寄与するかという観点で議論されることが多いが、重要なのはTechnology(技術)だけじゃなくて、データと情報、コミュニケーション、社会影響等を含むより広い意味でのICTの効果、即ちInformaticsの観点でICT4Dが議論されるべき、というのが「Informatics-centred」の意味。ICT4DじゃなくてInformatics4D (I4D)にするということ。

この「Informatics-centred」の観点から面白いなと思ったのは、途上国開発にデータを有効活用するという観点がポスト2015年には重要になろうというもの。途上国での携帯電話の利用からとれるデータや途上国政府がICTの活用によってリアルタイムに取れるようになるデータ等をどう活用するか?という観点。このD4D(Data4Development)はかなり可能性がある領域と思う。民間企業の途上国進出においても、この領域への参入はとても有望なのではないかと個人的には感じる。

また、 「Informatics-centred」の観点からは、ICTの正の効果だけでなく負の影響も視野に入る。サイバー犯罪やICTの人体への悪影響、ライフ・ワークバランスへの負の影響といった、ICT4Dの負の部分にも留意が必要であるが、これまではあまり議論がされていない。ポスト2015年においては、この観点も軽視してはならないだろう。

3.NEW DEVELOPMENT-ORIENTED PRIORITIES FOR ICT4D AND WSIS

ポスト2015年において優先度の高いICT4D分野を、ICT4Dアジェンダと開発アジェンダのギャップから導き出したのが以下の16分野。ワーキングペーパーでは各分野のさらに細かい内容まで書いてある。例えば、EnvironmentならGreen IT Innovationやe-wasteなど。

ICT4D Prioprity

ICT4D 2016: New Priorities for ICT4D Policy, Practice and WSIS in a Post-2015 Worldより

4.TRANSFORMATIVE DEVELOPMENT AND DEVELOPMENT 2.0

これまでの段階的な(順序を1つずつ踏んでいくような)開発ではなく、ポスト2015年ではもっとスピードのある開発が求められるだろう。そして、途上国の開発スピードなり方法なりを、これまでとは劇的に変化させることに活用出来るのがICT。具体的に「どう変わるのか」については、まだ明確なビジョンは誰も示していないものの、変わるはずという期待感は大きい。例えば、HeeksのいうDevelopment 2.0は、ICTによって変わる(変わった)途上国開発のあり方(モデル)を示唆している。

5.THE FUTURE OF ICT4D AND WSIS: STRUCTURE, PROCESS AND VISION

ICTのメインストリーム化についての話。2000年のICT4Dバブルを過ぎたころから、ICTを開発アジェンダのメインストリームにしようという動きが続いていた。例えば、援助機関においても、ICTタスクフォース的な特別部隊や部署をもうけて、それに詳しい人達だけで議論しているのではなく、ICTをどの分野でも使える当たり前のツールとしていこうということ。

一見、「うんうん。そうだ」と思うのですが、裏を返すと、「ICTタスクフォース的な特別部隊や部署はもう解散します。あとは各部署でうまくICTを活用してね!携帯電話やパソコンは、もう当たり前に使うツールですから」ということ。これだと、ICTの専門知識がないにも関わらずICT利活用をまかされた各部署では、ICTの活用方法について良いアイデアはでない。そして、ICT利活用が廃れていく…。なので、やっぱりメインストリーム化じゃなくて、ICTのことが良くわかるタスクフォースなり部署なりを作って、そこがICTの各分野での活用を牽引していかないといけない。要するにICT4Dオタクがいないと、ICT4Dプロジェクトは上手くいかないということ。それを国連機関の体制に落としてみると以下のようになる。ICT4DオタクがUNGIS Secretariatで、ITUが技術屋さん。そして、それら2つの機関の支援を受けつつUNDP等がICT利活用を実施するようなイメージか。

Structuring ICT4D Within UN System

以上、自分自身の備忘録的な意味も含めて、長々と書いてしまいました。でも、このワーキングペーパーはとても勉強になったと思うので、興味がある方はオススメします。ポスト2015年とICT4Dがどうなるか、まずはソチでWSIS2015が本当にあるのかをウオッチングしていこうかと思います。

ICT4Dプロジェクトの評価について

先日、とあるコンサルタントの方とお話ししていたら、評価の仕事よりも技術協力の仕事の方が好きだと言っていました。途上国の特定の相手、もしくは大多数に対して何かの技術を教えることは、「途上国のためになる仕事をしている感」をダイレクトに感じられるが、評価は比較すると、そういった感じを受けにくい仕事だある、と。なるほどなぁと感じながら、ICT4Dプロジェクトの評価について調べてみた。

開発援助プロジェクトは最後に評価を行うのが常。プロジェクトの成果をきちんと把握したり、後に同様のプロジェクトを実施する際に有益となる教訓を導き出すことが評価の意味と考えられる。

ICT4Dプロジェクトの評価方法について考えるうえで非常に参考になるのが、“Compendium on Impact Assessment of ICT-for-Development Projects”というpaper。IDRCがスポンサーになってManchester Universityが実施したもの。2009年とちょっと古いけれど、ICT4Dプロジェクトの評価に使えるフレームワーク・手法として以下12種類に言及している。それぞれの特徴、短所、長所、どういったタイプのICT4Dプロジェクトに向くか(例えば、テレセンターの経済的な持続継続性を図るにはCBAが良いなど)、実施時の留意事項など、端的にまとめられていてわかりやすい。

1. Cost-Benefit Analysis (CBA)
2. Project Goals
3. Communications-for-Development
4. Capabilities (Sen) Framework
5. Livelihoods Framework
6. Information Economics
7. Information Needs/Mapping
8. Cultural-Institutional Framework
9a. Enterprise (Variables)
9b. Enterprise (Relations)
9c. Enterprise (Value Chain)
10. Gender
11. Telecentres

これについては、HeeksのICT4Dブログでも当時取上げられており、他の研究者からもコメントで参考になる文献などが紹介されています。

これに目を通して見て思うのは、結局、評価はその目的、評価結果を誰に見せるか、によって採用するべき手法や実施タイミグが大きく異なるということ。本当に意味のある評価結果を求める場合、なんにでも適用出来る評価方法はないのかもしれない。基本的にプロジェクトの最終的なインパクトに重きを置けば、調査すべき事項は膨れ、あくまでもプロジェクトが達成する限定的な成果やプロセスにフォーカスすれば、調査すべき事項は絞られる。

例えば、テレセンターで農業情報を提供することで、農作物の収穫UP、収入UPを目的とするICT4Dプロジェクトの場合、農民がインターネットの使い方をマスターして天気予報や農業専門家のアドバイス基づいて作物を育て、市場情報に基づき仲買人と交渉することが出来るようになったとしても、それがイコール収入UPにはならないケースもあろう(作りすぎてしまい逆に単価が落ちてしまうとか、国際的な市場価格に左右されるなど)。この場合、インパクトに重きを置けば、過剰生産に対する計画がなかったとか、国際市場価格のウオッチングが欠如してた、の理由でプロジェクトは失敗だということになる。一方、農民がインターネットが使えるようになったとか、仲買人とも交渉できるようになったという成果とそこに至るプロセスに重きをおけば、プロジェクトは成功とも言える。

ICT4Dプロジェクトというカテゴリーで考えると、よりICTに近いとことろに絞り込んで(例えば、農民がインターネットを使えるようになったか否か)評価するほうがやりやすいが、本当の目的は農民の収入UPである。しかし、その目的達成にはICT以外の多くの要素が絡んでおり、評価にもより時間とコストを要する。

言い換えれば、ICT4Dプロジェクトにおいてツールとして活用されているICTにフォーカスするか、4Dにフォーカスするかというのが議論になるところ。さらに、終了したプロジェクトに対してどこまで時間とコストをかけるのかという点も考慮しないといけない。

利益追求の事業ならば、黒字化したか、いくら儲かったか、という明確な指標があるが、開発援助プロジェクト全般、とりわけICTをツールとして活用するICT4Dプロジェクトについては、(評価の必要性には疑いはないものの、)何を目的にどこまでやるか、なかなか明確な指標を設けるのは難しそうである…。

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携帯電話の開発インパクトをどう評価する?

携帯電話がアフリカなどの途上国で普及し、その活用が開発に大きなインパクトを及ぼすようになったのは良く聞く話。バングラデシュのグラミンフォンからケニアのM-PESAを初めとする携帯電話を使ったモバイル送金まで、途上国開発における携帯電話活用事例は多くなるいっぽうだ。農村において、携帯電話により市場価格がわかるようになったことで、それまでのように仲買商人の言い値で農作物を売らなくてすむようになり、収入が増えた農家の話などは、「ああ、なるほど」と思えるM4D (Mobile for Development)の代表例だろう。

「携帯、便利だなぁ」ということは誰もが知っていることだけど、「じゃ、どんなインパクトがあるか?」というと、上記に述べたような事例話になる。他にも、M-PASEによって銀行口座が持てない人でも送金サービスが使えるようになるとか、“携帯の普及が10ポイント上がる毎にGDPが1.2ポイントあがる”というインドの調査結果があるとかってのも分かりやすい。でも、こういう説明は多々あるインパクトの一側面でしかなく、「全体像」がわからないモヤモヤ感がある。

と、そんな風に思っていたら、Heeksのブログに“Understanding Mobiles and Livelihoods”というタイトルで面白いフレームワークが提案されていたので紹介したい。

まず最初に、このフレームワークは、Sustainable livelihood Framework というもの(下の図:IDRCのWebサイトから引用)がベースになっているので、その簡単な説明から。

このSustainable Livelihoods Frameworkというのは、自分も100%理解出来ているわけではないのですが、シンプルにいうと、貧困層の人々の生活を把握するために、彼らの生活に大きな影響を及ぼす要因とそれらの関係性をフレームワークにしたもの。貧困層の持っている資産(Asset)を5分野(Human Resource, Social Resource, Natural Resource, Physical Resource, Financial Resource:五角形のところ)にカテゴリして整理しているのが特徴。開発プロジェクト計画時などで、プロジェクトがこの全体のどこに介入し、その結果がどう影響するのかということを考えるのに使ったり出来る(参考:http://www.ifad.org/sla/index.htm)。

前置きが長くなってしまいましたが、このSustainable Livelihoods Frameworkをベースにして、M4Dのインパクト分析のために作られたフレームワークがこちら。

変更点がいくつかあるのですが、まず、自分が「なるほど」と思ったのは、三角形のところ。オリジナルのSustainable Livelihoods Frameworkでは五角形となっている資産(Asset)を、携帯電話の活用に関連する資産ということで、以下の3つのカテゴリに分けて整理している。

  • Resource-based assets (RBA) that are tangible (physical, financial, natural capital)→目に見えるもの。これは単純で分かりやすい。
  • Network-based assets (NBA) that derive from connections (social, political, cultural capital)→携帯で人と繋がることで得られるメリット。確かにあるよね。これ重要。
  • Cognitive-based assets (CBA) comprising human and psychological capital including competencies (knowledge, skills, attitudes)→情報を得ることで増える資産。

こういう整理をすると、なんとなく「携帯電話、便利だなぁ」という点が、より明確に理解出来るようになる。
次に、もう一つの変更点である図の下の部分(Outputs→Outcomes→Impactsという3つの四角)。携帯電話によって送金サービスが使えたり、人脈ネットワークが広がったり、情報が増えたりするけれど、そのインパクトを以下3つのレベルで示した図になっている(この部分は、同じHeeksが提案している“ICT4D Value Chain”という別のフレームワークからの抜粋になってます)。

  • Outputs: the micro-level behavioural changes associated with technology use.→主に定性的な変化。
  • Outcomes: the wider costs and benefits associated with ICT.→収入が増えたとか、定量的にもわかる変化。
  • Development Impacts: the contribution of the ICT to broader development goals.→MDGs達成への貢献とか。

以上のように、このフレームワークを見てみると、携帯電話の開発インパクトを考える上で一定の全体像が示されている感があり、なるほど何かの折に参考に使えるなぁと感じた。また、何も携帯電話に特化しなくても、Webの利用とか、SNSの利用とか、ICT活用のなかでも「Communication」に重きを置くサービス活用には応用可能なフレームワークであるとも思える。

そういえば、昨日友人と話していたら、「そもそもICTって何?」という質問をされた。確かにICTって、意味するものが広すぎる用語だ。そしてICT4Dという分野も同様にかなり広い。これまではICTを途上国開発に活用するというアイデア自体が新しいものだったから、ICT4Dでも良かったのかもしれないけれど、PCとか携帯電話とかラジオとかの「機器別」のアプローチとか、SNSとかSMSとかの「サービス別」のアプローチとか、遠隔教育とか遠隔医療とか「分野別」のアプローチというように、これからはより細分化して考えていく必要性が高くなるだろう。

以下、参考Webサイト:
ICTs for Development Understanding Mobiles and Livelihoods
ICTs for Development  The ICT4D Value Chain
IFAD The Sustainable Livelihoods Approach 
IDRC A Sustainable Livelihoods Approach for Action Research on Wastewater Use in Agriculture

エチオピアの大学教育におけるITカリキュラム改定について

よくこのブログの元ネタにしているHeeks教授のICT4Dブログに、途上国の大学におけるIT教育のカリキュラム改定に関する投稿「Evaluating Computer Science Curriculum Change in African Universities」があった。IEEEやACMが作成したIT教育のカリキュラムが途上国でも採用されつつある。確かにIEEEなどの国際的に認められている機関が作ったカリキュラムならお墨付きだし、途上国の大学がそれを採用するもの自然な流れだろう。しかしながら、いわゆる欧米(特にアメリカ)の大学教育を想定して作成されたカリキュラムを途上国で適用するには、それなりに障壁も。そんな訳で、欧米発のITカリキュラムを適用しているエチオピアの複数の大学を対象とした調査研究結果が紹介されていた。

調査はエチオピアの複数の大学を対象に、OPTIMISMというフレームワークに沿って、新カリキュラム導入に期待していた点と現実のギャップを明らかにするというもの。OPTIMISMは、以下の視点の頭文字をとったもの。

Bass and Heeks (2011)

調査結果としては、”Technology”と”Staffing and Skill”の2つの分野でもっとも大きな理想と現実のギャップがあることが報告されている。キーワードが抽象的で分かりにくいので、元の論文もちょっと見てみた。具体的には、コンピュータ室の設備や機材が足りていない点(Technology)、教える教員のスキル・経験不足(Staffing and Skill)という2点のことだった。

コンピュータサイエンス等を教えるための機材(ハード、ソフト)不足は、単純によくわかる。大学もお金がないから整備が困難。一方、教員のスキル・経験不足については、問題が根深い。そもそもエチオピア国内でInformation Technology専攻の修士コースがないなど、ICT分野の修士コースが限られている(アジスアベバ大学でも年20名)。このため、教員となれる人材リソースが少ない。この結果、教授レベルでもICT分野のPhDを持っていないという大学もあるという現状。

この調査研究では、OPTIMISMというフレームワークを、ITカリキュラム改定の課題を探るために利用することで、広い視点から今後改善(投資)が必要な分野を明らかに出来たという結論になっている。そして、コンピュータ室の機材不足や教員のスキル不足といった問題の解決を中心に、カリキュラム改定を浸透させるめの提案がなされてる。提案は技術に詳しい有識者グループを結成して教材レベルを上げるとか、ICT分野の修士コースを増やすとか、資金を投入するとか、政府がイニシアチブをって継続的にカリキュラム改定をフォローするとか、確かにその通りだけど、ちょっと物足りなさを感じた。

個人的には、ICT産業振興と絡めないと教員のスキル不足は解消しないと思う。卒業してもICT分野の仕事がないと、ICTを専攻する学生は増えず、学生ニーズがなければ大学もコースを設けず、それがICT人材不足に繋がり、結果的にICT産業も盛り上がらないという負のスパイラルがある。エチオピアでIT教師をしていたときに感じたことだ。ITの勉強をしても仕事がないのだ。ICT産業が限られた国で、経験豊富な教員を獲得するのは困難だろう。IT教育のカリキュラム改定・改善は、どうしてもICT産業振興とセットでないと威力を発揮しずらいと思う。この研究は、そもそも学術研究なので、改善提案よりもフレームワークを使った分析が目的なのだろうけど、このように提案部分についてはもっと広い視点からの提案があってもよかったかと、物足りなさも。でも、「先進国発のカリキュラムを使うのではなく、途上国用のカリキュラムを作成するのは、危険。ワールドスタンダードに満たない学位をとってもメリットがない」という指摘には同感。

Reference: Bass, J. and Heeks, R. (2011) “Changing Computing Curricula in African Universities: Evaluating Progress and Challenges via Design-Reality Gap Analysis”, The Electronic Journal on Information Systems in Developing Countries, 48, 5, pp.1-39

インドのソーシャル・アウトソーシング事例

Heeks教授のICT4Dブログから、「インドのソーシャル・アウトソーシング事例と、そこから見えるDevelopment 2.0の課題」を紹介したい。Heeks教授のブログでは、socially-responsible outsourcing(=SRO)という用語が使われているけれど、このブログではもうちょっと短くソーシャル・アウトソーシングという用語を使います(以前使ってた用語で統一するため)。

インドでテレセンター事業などを展開しているDrishteeが、都市部で得た仕事(データ入力、データ編集、電話サポートなど)を地方のテレセンターに卸すことで、地方の所得創出を狙ったプロジェクトを行なっている。事例ではBiharという地域が取り上げられている。比較的人口の多い町(6000人程度)では、地域事務所(PC20台、プリンタ2台、インターネット回線(512KB)、UPS、ジェネレータ等が整備されている←USD13,000で開設)において、データ入力、データ編集、電話サポートなどを行う。一方、もっと小さな村では、個人運営のテレセンター(PC2台〜、インターネット回線(114KB)等が整備されている←USD1,500で開設)でデータ入力、データ編集など(電話サポートはなし)を行う。都市で受注した仕事をするためには、従業員のトレーニング(ITスキル、コミュニケーションスキル、言語など:2〜3ヶ月)が必要であり、それでも仕事開始当初はデータ入力の正確さは75%程度で、開始後2ヶ月ほどでその正確さが95%になるという。このBihar地域でのソーシャル・アウトソーシングのパイロットプロジェクト結果としては、それなりの雇用(地域事務所で19名、地方テレセンターで5名)を生み出し、さらに、十分な仕事が受注出来れば、地方にしては高給を得ることができる(=サステイナブルである)ということが判明したという(細かい結果レポートが知りたい方は、直接Heeks教授のICT4Dブログを参照してくださいね)。

「おっ、凄いな〜」と思ったけれど、Heeks教授の見方は結構シビアである。Development 2.0 として、①ICTの中抜き効果による“ダイレクト”な開発、②ICTによるデジタルプロダクションが可能となったかという視点で見ると、地方で仕事がなかった者が本プロジェクトでデータ入力作業などが出来るようになり、自らが情報の作り手側になれたという点で②は実現出来たと言える。しかし、①については、結局、都市部から地域オフィスへそして地域オフィスから地方のテレセンターへと仕事が流れてくる仕組みであり、最も裨益すべき者(つまり地方のテレセンターで職を得る者)にとっては、全然ダイレクトな開発ではない。ICTによって貧しい者達がダイレクトにデジタルエコノミーに参加することでこれまで以上の利益を得られるというのが、Development 2.0時代に期待されることだけど、これは実現出来ていない。

さらに、十分な仕事を受注する困難さが深刻な課題であると指摘する。一般的なインドのアウトソーシングと比べて価格面でのメリットがあるものの、クライアント側にしてみると、まだ認知度の低いソーシャル・アウトソーシングというモデルそのものに対する不安が拭えないようだ。10年以上前からICT4D分野の課題として指摘されているITインフラやスキルといった典型的なハードルも以前としてある。そして、これらが解決されたとしても、信用や認知度といった新たな課題が立ちはだかる。ICTによるダイレクトな開発が実現される道のりはまだまだ遠い・・・。

と、ここまでがHeeks教授のブログの内容である。確かに、ICT関連の仕事は、「フェアトレードだから、ちょっと質が悪くても買っちゃおうかなぁ」とか思える類のものじゃない(データ入力にミスがあるんじゃ委託出来ない・・・)。そう考えると、ソーシャル・アウトソーシングが信頼を勝ち取るのは簡単じゃないだろう。また、クオリティを確保するためには、ピラミッド型に上位の会社が責任とチェック機能をおう構造にならざるを得ないため、貧困層が“ダイレクト”に利益を得るのも難しい。うーむ、なるほどと思いつつも、ビジネスなんだから安定した受注を得ることの困難さはあって当たり前だし、新しいビジネスモデルなら、浸透するのに時間がかかったり、それを浸透させるために策を打つのも当然という気がした。Biharのパイロットプロジェクトをこれまで同様の開発援助の視点から見ると、Heeks教授の指摘するように、「まだまだ課題が山積み・・・」という気がするが、そもそも、視点を変えるべきだと思う。援助機関が実施するプロジェクトではなく、一般企業であるDrishteeが実施するソーシャル・ビジネスなのだから。課題があって当たり前、むしろBiharのパイロットプロジェクトは十分な仕事が取れればサステイナブルと分かっただけで大成功なのでは?とも感じた。

Googleの取組みに見るhybridisation

マンチェスター大学Heeks教授のブログで、ICT4Dプロジェクトで作ったシステムやサービスが、途上国の人々(ユーザ)に使われないことがままあるのは何故か?というテーマについての投稿があったので紹介。

“Understanding ICT4D Adoption via Institutional Dualism”というタイトルで、その理由を説明している。先進国からのプロジェクト設計・実施者は、先進国の習慣、常識、ルール、考え方などに基づいてプロジェクトを実施するが、途上国のユーザの習慣、常識、ルール、考え方などとは違うため、そこでギャップが生じることで、ユーザに受入れられないケースが少なくないという。習慣やルールなどは、その国や地域、組織内で、皆がそれに基づく行動をとり、その行動によってさらに習慣やルールが浸透・確立されるという相互連鎖関係(Institutional Network)がある。先進国でも途上国でも、独自のInstitutional Networkにより、それぞれの習慣やルールが確立されてきたため、先進国主導のICT4Dプロジェクトでは、その違いからギャップが生じることになる。そして、そんなギャップが生じた実際のプロジェクトは以下4通りのどこかに行き着く。

  1. Domination:先進国or途上国のいずれかのInstitional Networkが勝つ。先進国が勝つ場合は、ユーザがシステムを使わないという失敗に終わり、途上国が勝つ場合、プロジェクトは修正・再構築を余儀なくされる。
  2. Contest: 先進国or途上国のいずれかのInstitional Networkが優勢になりつつも、劣勢となった側も抵抗をつづけ、もめ続ける・・・。
  3. Parallel-Running:部分的に先進国側が勝つところ、途上国側が勝つところに分かれる。プロジェクトのスコープやフレキシビリティによっては可能。
  4. Hybridisation:両方がミックスされて独自のInstitutional Networkが出来上がる。

もちろん4番目がもっとも理想的であるが、不幸にも1や2になってしまい失敗に終わるケースも。。。

と、上記がHeeks教授のブログの内容。まぁ、そう言ってもHybridisationってのは簡単ではなさそうだ・・・と思っていたところに、ちょうどHybridisationとも呼べそうな取組みがGooglgeのアフリカ現地語対応にみてとれたので、こちらも紹介したい。

Google Africa Blogによると、最近、ガーナ、南アフリカ、セイシェルでの4つの現地語にGoogle検索が対応可能となった。これで合計31のアフリカ現地語に対応したことになる(ちなみに、インターネットユーザが100人当たり0.54人(2009年ITU統計)しかいないエチオピアの公用語アムハラ語にも対応しているのは凄い)。その現地語対応の翻訳作業には、ボランティアで現地の多くの大学(12大学)が協力している。ボランティアで参加した学生は、非常に良い経験を積めるし、Googleとしてもより正確な現地語対応が可能となる。しかも、ボランティアだから費用はあまりかからない。これまで消費するだけの立場だった途上国ユーザが、作り手として参加する意味もある。どちらもWin-Winな関係で、最終的に現地ユーザにも受入れられるシステムが出来上がるという仕組み。これってHybridisationだなぁ。

もう一つ思ったのは、現地語対応というGoogleの素直なアプローチにセンスを感じる。知識やスキルがなければ使えないシステムを、トレーニングや啓蒙活動を通じて使えるようにするのではなく、素直に特別な知識やスキルがなくても使えるようにシステムを変更するというアプローチは、以外に少ないじゃないかと思う(勿論、そもそも英語キーボードのためアルファベットの読み方くらいはわからないと無理だが)。日本のシステム構築プロジェクトでも、使い勝手が悪いシステムや組織のフローにあっていないシステムを、トレーニングやマニュアルを充実させたり、組織のフローを変えることで導入させたりするケースは少なくないのでは・・・?
単純に使いやすいものを提供するというアプローチが、ICT4Dプロジェクトで出来れば、よりユーザに受け入られるものになるのだろう。